『オレオレ詐欺』などの特殊詐欺が広く知られるようになったのは、2000年代前半。
以来、注意喚起や啓発が行われています。
ただ、それでも2019年には16,851件もの詐欺が認知されています。
それは、詐欺の手口が年々進化していることもありますが、
詐欺師が、人間なら誰にもある心理を利用して詐欺を行うからです。
この記事では
- 詐欺師が使う心理学
- 騙されやすい人の特徴
について解説します。
いえいえ、実はそういう人こそ危なかったりするんですよ!
それに、ほとんどの人に、何かしら『騙されやすい要素』があると言っても過言ではありません。
ですから、ぜひ読んで知ってください!
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人はなぜ騙される!?詐欺師が使う6つの心理学
詐欺師は、詐欺を行う時に『人間に備わっている心理』を利用します。
まず、その心理を6つ、解説しましょう。
なお、記事では詐欺師が、どのように人の心理を利用するかを書いています。
絶対に悪用しないでください。
心理を悪用して、人をコントロールすると、相手を傷つけるのはもちろん、信頼を損ねて人間関係に溝を作る結果になります。
お返しをする心理『返報性』
人間には、
『自分に良いことをしてくれた人には良いことを、いやなことをした人にはいやなことをし返したくなる』
という心理があります。
これを『返報性』と言います。
詐欺師が『返報性』をどう利用するかというと、たとえば
親身に話し相手になったりして、『親切な人』と思わせるのです。
そうすると、ターゲットにされた人はつい、『親切にしてもらったのだから』と、
- 要らないものまで買ってしまう
- 不用品買取業者に、本当は売るつもりではなかったものまで差し出してしまう
といった行動に至りやすくなります。
多くの人が言うことを信じてしまう『社会的証明』
『社会的証明』とは、
『多くの人が言っていることを本当だと思う』
という心理です。
この『社会的証明』の心理は、劇場型詐欺で利用されます。
たとえば、『あなたの子どもが事故を起こした』というストーリーだったら、
- 警察官役
- 事故の相手役
- 事故の相手の妻や夫の役
- 弁護士役
など、複数の詐欺師が電話をかけてきます。
ターゲットは、複数の人から1つの出来事の話をされるため、『これは本当に事故があったんだ』と思い込んでしまいやすくなるのです。
さらに、ターゲットが詐欺師から聞いた話について、誰にも相談や確認をしないでいると
詐欺師以外からの情報が入らなくなり、社会的証明は強化されます。
権威を信じてしまう『権威バイアス』
『権威バイアス』というのは、
『権威があると感じるものを信じる』
という心理です。
たとえば、
- 警察官
- 弁護士
- 省庁や市区町村役所、公的機関の職員
などの『権威がある職業』ってありますよね。
そういった肩書を名乗られると、人はその人の話すことを信じてしまいやすくなります。
また、職業名だけでなく、
- 有名企業や大手金融機関
- 公的機関と思い込むような名称の機関
- 『オリンピック協会』などの、ちゃんとした機関だという印象を受けやすい名称
を騙るのも、この『権威バイアス』を利用しています。
信じたいものを信じる『確証バイアス』
『確証バイアス』というのは、
- 自分が持っている考えや価値観を肯定してくれる情報ばかりに目を向ける
- 自分の考えや価値観を否定する情報を、無視したり『間違っている』と思ったりする
という傾向のことで、人間なら、誰もが持っている心理です。
たとえば、オレオレ詐欺の電話が来た時に『子どもから電話だ』と思うと、なんとなく違和感を持っても、
- 子どもの名前を名乗っているから、本人に違いない
- 前に『番号が変わった』と連絡があり、その番号だから本人だ
- 前に電話が来た時に『風邪気味だ』と言っていたから、声が違って聞こえるのは、そのせい
- 口調がいつもと違うのは、大変なことが起きて動揺しているから
など、
『電話の主は身内である』という判断を肯定する方向に解釈
してしまうのです。
頼みごとを断りにくくなる『フット・イン・ザ・ドア』
人には
『ハードルの低い頼みごとを受け入れると、頼みごとのハードルが上がっても断りにくくなる』
という心理もあります。
これを利用するのが『フット・イン・ザ・ドア』と呼ばれる心理技術です。
たとえば、不用品買取の詐欺で、
詐欺師
要らないTシャツ1枚でも良いので、売ってください!
と言われ、売ることにしたとしましょう。
この時点で、相手の『何か売ってほしい』という頼みを受け入れたことになります。
すると、業者が買い取りのために訪問して来た時に
詐欺師
他にもいらない衣類があったら売ってください。
と言われると、断りにくくなってしまうのです。
さらに衣類を出すと、次に
詐欺師
アクセサリーを見せてもらえませんか?
と言われ、つい断りにくくてアクセサリーを持ってくると、
詐欺師
これは高く売れますよ!
ぜひ売っていただけませんか?
と言われ、結局アクセサリーまで買い取られてしまいます。
これが『フット・イン・ザ・ドア』を使った詐欺の例です。
最初に難しい要求をする『ドア・イン・ザ・フェイス』
『フット・イン・ザ・ドア』の逆で、『ドア・イン・ザ・フェイス』という心理技術もあります。
これは、
『最初に難しい要求をされて断った後、相手が難易度の低い要求をしてくると、応じてしまいやすくなる』
という心理を利用します。
たとえば、架空請求詐欺のメールを受け取って詐欺師に連絡したら
詐欺師
アダルトサイトの利用料が、7万5千円になっています。
明日までに入金がない場合、裁判になります。
と言われたとします。
「今お金がなくて、そんなに払えない」
と伝えると、
詐欺師
キャンペーン価格が適用されることがわかりました。
退会手数料込みで、5万円お支払いいただければ大丈夫です。
などと、金額を下げてきます。
ターゲットは、金額が下がってホッとしたのと、『この額で裁判を避けられるなら』という思いから、お金を払ってしまうのです。
詐欺師の作戦がさらに判断力を低下させる
詐欺師は、誰もが持っている心理を利用して詐欺を行います。
でも、人の心理を利用するだけではありません。
人が持つ心理が、詐欺師にとって、さらにうまく働くように詐欺を行うのです。
具体的に言うと
大変なことが起きた話をし、『このままでは逮捕される』などと脅す
⇒不安や混乱に陥れ、冷静に考えにくくし、判断力を低下させる
すぐにお金を払うように迫る
⇒焦らせて判断力を低下させる
誰にも話さないように口止めをし、第三者への相談を防ぐ
⇒第三者からの冷静な意見や情報を遮断する
誰かに相談する暇を与えずに、複数の詐欺師から畳みかけるように電話をする
⇒落ち着いて冷静に考える時間を与えない
お金を払えば事態を収拾できるかのような話をする
⇒詐欺師が与える『解決方法』に飛びつかせる
といったことです。
人は混乱や恐怖に陥ると、どうしても判断力が落ちます。
判断力が落ちると、社会的証明や権威バイアスなどを止めることが、さらに難しくなります。
また、誰かに相談すれば、
「それ、詐欺じゃないの?」
と言ってもらえることがありますよね。
でも口止めをされれば、考える材料は詐欺師に与えられた情報だけです。
確証バイアスが、さらに強化されてしまいます。
そして、窮地で見つけた解決策には、藁をもすがる気持ちで飛びついてしまいます。
その『解決策』が、詐欺師が目的としている『お金を払う』なのです。
詐欺師は目的のために、人の心理を利用して、人の心も散々揺さぶるんだなぁ。
そうなんです。
だから、だまされる人が絶えないのです。
詐欺に騙されやすい人の特徴
ここから、『どのような人が詐欺に騙されやすいのか』について解説します。
どんな人が詐欺に騙されやすいのか
結論を言うと、
全ての人が『騙されやすい人』です。
なぜかといえば、
- 詐欺師は、誰もが持っている心理を利用して詐欺を仕掛けてくる
- それぞれの人の持つ性格や傾向、特性などが、状況次第で『騙されやすくなる要因』になる
- 『騙されやすくなる要因』になり得る性格や傾向は、誰もが何かしら持っている
ということからです。
特に騙されやすい人は?
はい、あります。
それは
- 『自分は絶対騙されない』と思っている人
- 高齢者
です。
『自分は騙されない』と思う人ほどだまされやすい
『自分は絶対詐欺なんかにひっかからない!』
と信じている人は、騙されやすいです。
『自分は騙されない』というのは、ある種の『自信』ですよね。
その自信が裏目に出て
- 自分が詐欺に遭う可能性やリスクがあることを過小評価する
- 詐欺の情報に目を向けなくなる
- 詐欺への警戒心が弱くなる
- 他の人が警鐘を鳴らしているのをスルーしてしまう
- 詐欺の対策をしない
となることが多く、逆にリスクを高めてしまう原因になるのです。
平成30年の調査では、オレオレ詐欺などの被害者の90%以上の人が、
- 自分はだまされないと思っていた
- どちらかというと、自分はだまされないと思っていた
と発言しています。
自信を持つことは悪いことではありませんが、
詐欺に関しては、『自分は被害に遭わない自信がない』と思うくらいが良いのです。
高齢者は騙されやすい
『高齢である』ことも騙されやすい要素の1つです。
実際、特殊詐欺の被害者の8割以上が、高齢者です。
高齢者が『騙されやすい』ことには、
- 人生経験や困難を乗り越えてきたという自信から『自分は騙されない』と思ってしまいやすい
- 家にいることが多いために、詐欺電話に遭遇しやすい
- 家族の声を認識しにくい
- 認知症があると、判断力が低下する
といった要因があります。
『自分は騙されない』については、先ほど解説した通りです。
さらに、
自宅にいることが多いために、詐欺電話に遭遇する確率が高かったり、認知症にかかってしまったりと、高齢者ならではの要因
もあるのです。
高齢者など老人が狙われる電話系詐欺の種類と手口を解説【対策も】
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詐欺に騙されやすい特徴
『詐欺に騙されやすい特徴』は、他にもあります。
ざっと挙げるので、自分がいくつ当てはまるか、数えてみてくださいね。
- 断るのが苦手
- 褒められるとうれしい・人に認められたい
- 人に良く思われたい
- 『期間限定』などの特別感に惹かれる
- 良心的でありたい・人に親切にしたい
- わかりにくい話を考えるのが苦手
- できれば頑張らずにいい結果を得たい
- 自分の判断に自信がない
- 自分の間違いを認めたくない
- 言われたことを鵜呑みにしてしまうことがある
- 寂しい・誰かに自分のことを理解してほしい
そうですよね。
それがまさに、『誰もが【騙されやすい人】である』ということなんです。
では、それぞれの特徴がどんな風に『騙される要因』になるか、見てみましょう。
特徴 | 詐欺師にどう利用されるか |
断るのが苦手 | 強くプッシュされて要求を受け入れてしまう |
褒められるとうれしい・人に認められたい | 褒めて良い気分にさせて話に乗せられる |
人に良く思われたい | 断ったら悪いような気がして、要求を受け入れてしまう |
『期間限定』などの特別感に惹かれる | 『この企業は非常に有望なので株を欲しがる人が多いが、パンフレットが届いた人しか買えない』など、希少性で釣られる |
良心的でありたい・人に親切にしたい | 『被災地への義援金を募っている』『人助けのために名義を貸してほしい』『少額でも買取の実績を作らないとクビになりそう』など、善意や人情に訴えられる |
わかりにくい話を考えるのが苦手 言われたことを鵜呑みにしてしまう | 専門家を装ったり難しい言葉を使ったりして、なし崩し的に納得させられてしまう |
できれば頑張らずにいい結果を得たい | 『誰でも簡単に儲かる』『絶対に損しない』など、楽に儲かる話に釣られる |
自分の判断に自信がない | 自信のなさに乗じて、詐欺師の方が正しいかのように思わされる |
つい相手に合わせてしまう | 詐欺師のペースや話に巻き込まれる |
自分の間違いを認めたくない | ターゲット本人がなんとなく『おかしいな』と思っていても、自分で自分の判断を正当化し、『お金を振り込む』などの行動をしてしまう |
寂しい・誰かに自分のことを理解してほしい | 詐欺師が親身なふりをして話を聞いてくれると信用してしまう |
こういった特徴は、『詐欺師の話で、ちょっと心を動かされやすくなる要因』です。
ですから、『1つ当てはまるだけで必ず騙される』わけではありません。
でも、『ちょっと心が動かされた』も複数重なると、騙されやすさがアップしてしまいます。
『どんな性格や傾向も、詐欺に利用され得る』と考えて、対策をすることが大切です。
スピリチュアルや自己啓発が好きだと騙されやすい?
騙されやすい傾向があります。
なぜかというと、スピリチュアルや自己啓発の考え方の中に、
客観的な根拠を調べようとする警戒心を緩めかねない考え方があるからです。
たとえば、スピリチュアルや自己啓発には
- 『直観に従うのが正しい』
- 『引き寄せの法則』
- 『偶然は偶然ではなく、メッセージである』
といった考え方があります。
こうした考え方には
直観に従うのが正しい
⇒根拠のないことを信じてしまう・『直観で正しいと思った』ことを信じる根拠にしてしまう
『引き寄せの法則』
⇒自分のところに『良い話』が来たのを『引き寄せだ』と思って応じてしまう
『偶然は偶然ではなく、メッセージ』
⇒たとえば、たまたま投資に関心が向いた時に投資詐欺の話が来たのを、『これは偶然ではなく、【やるべき】というメッセージだ』と思ってしまう
といった危険性があるのです。
スピリチュアルや自己啓発が好きな人は、『冷静に考える』ことを忘れないでもらいたいですね。
自分で考えて判断する人は騙されない?
たしかに、自分で情報を集め判断する人には、騙されにくい傾向があります。
でも時には、
『自分で考えて判断する』という傾向を利用されてしまうこともあるのです。
詐欺師は
- あえて詐欺師の話にツッコミを入れさせる
- 考える材料として、ターゲットが自ら詐欺師が望む結論にたどり着くような情報を与える
といった巧みな話術で、ターゲットの考えを操作することがあります。
そして、ターゲットに『自ら考えて納得し、結論を出した』かのように思わせてしまうのです。
そこまでするの!?
そこまでする詐欺師がいるんです。
びっくりですよね。
ただ、やはり『自分で考えて判断する人は騙されにくい』という傾向はあります。
ですから、自分で考えて判断することも必要です。
その他の『騙されやすくなる要因』
詐欺師に騙されやすくなるのは、1人1人の持つ性格や傾向のせいだけではありません。
- 『電話』という道具の持つ性質
- 生活の状況
- 心や体の健康状態、障害など
なども、『騙されやすさ』に影響します。
『電話』の性質で騙されやすさがアップする
『電話』で話すと、相手の声が耳元で聞こえますよね。
実は、
『耳元で聞こえる』ということが、騙されやすくなる原因の1つ
と考えられているのです。
なぜかというと、耳元で相手の声が聞こえると
- 少し離れたところで聞くよりも、内容や感情がダイレクトに伝わりやすい
- 相手が見えなくても、『すぐそばにいて話している』かのように感じる
- すぐ近くで話すほど親しい関係であるかのように錯覚してしまう
ということから、話を無視しにくくなったり、気持ちを揺さぶられやすくなったりすると考えられています。
生活などの状況から騙されやすくなることもある
生活などの状況では
- 初めての1人暮らしなどで、契約などについて自分で判断して決めることに慣れていない
- 社会経験が少ない
- 経済的に困難な状況にある
- 極端に疲れていたり、体の不調や病気があったりする
といったことが、騙されやすい要因になります。
さらに、
- 認知症などのために、判断力が低下している
- 知的障害や発達障害、心の病気などがある
といった状況の人は、詐欺被害に遭いやすくなるので、周囲の人も気を付けて見守ってください。
メモ
世の中には、知的障害や発達障害、心の病気などを持つ人を狙う
- 詐欺
- 悪徳商法
- 悪質な心理カウンセリングや自己啓発セミナー
- 科学的根拠に乏しい自然療法
などもあるので、注意が必要です。
また、カウンセラーを探したい時は、
- 精神保健センター
- 精神科や心療内科などの病院
- カウンセラー養成コースのある大学
で、『臨床心理士』や『公認心理士』の資格を持つカウンセラーをあたりましょう。
詐欺被害を防ぐための心構え
詐欺被害を防ぐために最も大事なことは、『自分も騙されるかもしれない』と思っておくことです。
そのうえで、
- 詐欺や悪徳商法の話題に関心を持つ
- 世の中には『誰でも簡単に儲かる』なんて都合の良い話はないと肝に銘じる
- 『きっぱり断る』ことに慣れておく
- 『職業名』や『企業や機関の名称』と『信用できるかどうか』は別だと心得ておく
ということが大切です。
さらに、詐欺や悪徳商法の電話と接触しないために
- 防犯機能の付いた電話機を使う
- 電話機に防犯機能がない時は、詐欺電話防止器を使う
- いつも留守番電話にしておき、知らない番号からの電話には出ないようにする
といった対策も、ぜひしてください。
そして、万が一怪しい電話が来たり、詐欺の被害に遭ってしまったりした時は
警察の相談窓口
⇒電話:#9110
消費生活センター
⇒電話:188
に相談してください。
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まとめ
詐欺師は、
- 社会的証明
- 権威バイアス
- 確証バイアス
- フット・イン・ザ・ドア
- ドア・イン・ザ・フェイス
といった、人間に備わっている心理を利用したり、心理技術を使って、詐欺を行います。
詐欺に騙されやすいのは、『自分は詐欺に引っかからない』と信じている人です。
騙されない自信のある人は、つい警戒が緩くなってしまいます。
そのため、逆に騙されやすくなってしまうのです。
他にも、
- 断るのが苦手
- 良心的で親切
- 人に良く思われたい
- つい相手に合わせてしまう
など、多くの人が持っている性格や傾向も、詐欺師に利用されることがあります。
つまり、誰もが詐欺に騙される可能性があるのです。
自分に自信を持つことも大切ですが、詐欺に関しては、自分を過信することなく、
- 日頃から詐欺に関心を持っておく
- 電話機での対策をする
といったことを実行してくださいね!