「ラストオブアス1」は、シリーズを通して“崩壊した世界”と“愛情を知ってしまった人間の業”を真正面から描ききったサバイバルアクションの名作です。
初出はPlayStation 3でしたが、PS4のリマスターやPS5・PCでのリメイクを経て、いまなお多くのプレイヤーを魅了し続けています。
その魅力の核にあるのは、父娘のような絆を育んでいく中年男ジョエルと14歳の少女エリーが辿る、深く痛ましくも不思議に美しい旅。
この記事では、ネタバレ必至のストーリーを結末まで網羅しつつ、各登場人物の心理描写や作品世界の背景を掘り下げ、さらにリメイク版ならではの追加要素にも触れていきます。
未プレイの方はもちろん、プレイ後に考察を深めたい方にも役立つ内容をお届けします。
注意
ここから先は数多くのネタバレを含みますので、物語のサプライズを大切にしたい方はご注意ください。
もっとも、事前にストーリーを知ってから実際にプレイしても、このゲームはしっかり感情を揺さぶりにくる名作なので、あえてネタバレOK派の方にもおすすめです。
では、一緒にジョエルとエリーの足跡を辿りながら、その世界を覗いていきましょう。
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荒廃する世界の発端とジョエルの絶望
「ラストオブアス1」が提示する世界の破滅は、コーディセプス菌という寄生菌の突然変異が発端です。
この菌は本来、昆虫(とくに蟻など)に寄生するもので、昆虫の行動を乗っ取る“ゾンビ蟻”が有名ですが、その菌が人間にも感染する形で変異した――という設定になっています。
感染者は理性を失い、周囲の人間に襲いかかるようになる。
しかも噛まれるだけでも感染が広がるため、世界中が一気に大混乱へ落ちていくのです。
冒頭の悲劇娘サラを失うジョエル
物語冒頭はパンデミック発生の初夜。
アメリカ南部テキサス州の自宅で、主人公ジョエルは娘サラや弟トミーと共に逃亡を図ります。
すでに街中は大混乱の真っ只中。
車で高速を走れば緊急車両や人々の悲鳴が響き、進路も封鎖され、まるで悪夢のような情景が広がっています。
やっとの思いで郊外へ逃げ出そうとする三人でしたが、軍の兵士が逃亡者を制止しようと銃を構え、誤射に近い形でサラに被弾。
ジョエルは娘を抱きしめながら
「サラ…頼む、行かないでくれ」
と必死に呼びかけるも、サラは息を引き取ってしまいます。
ほんの数十分で一気に人生を粉々にされたような絶望が、ここでプレイヤーの心にも深く刻み込まれるのです。
以降、ジョエルは「家族」という存在をいっさい失い、荒廃した世界で生き延びるための冷酷さを身につけていきます。
ある意味では、ジョエルの物語はこの時点で
愛を失った男が、再び愛を知ってしまうまで
の地獄巡りと言えるでしょう。
20年後荒廃したアメリカの日常
パンデミックから20年後のアメリカ合衆国。
大都市は軍の検疫区域(隔離地区)と化しており、外の世界は無法地帯。
ゾンビめいた“感染者”の脅威だけでなく、生存をかけて略奪や暴力を行う無法者、人間同士の争いも絶えません。
そんな中、ジョエルはボストンの隔離地域で密輸業を営む中年男として日々をこなし、テスという女性パートナーと裏取引を続けています。
金銭目的というよりは“生き延びる手段”として行う危険な仕事であり、そこにかつての優しさはほとんど残っていません。
ジョエルは20年前の痛みを閉じ込め、誰とも深く関わらず、冷めきった目で世界を見ているような印象です。
ファイアフライの存在
軍に対して反旗を翻す反政府組織「ファイアフライ」は、治安の悪い世界で何とか人類の未来を切り開こうと活動しています。
もっとも、その手段は必ずしも平和的とは言えず、軍との衝突は絶えない。
一般市民からすれば軍もファイアフライもどちらがマシか分からない状況です。
ジョエルにとってもファイアフライは得体の知れない武装集団にすぎず、興味もありませんでした。
とはいえ、ジョエルとテスはひょんなことからファイアフライのリーダー的存在“マーリーン”と接触。
「ある少女を指定の場所まで連れて行ってほしい」
という依頼を持ちかけられることになります。
普段は関わりたくないが、そこそこ報酬がいいとなれば話は別。
こうしてジョエルとテスは、少女を護送する仕事を引き受けるのです。
旅の幕開けエリーとの出会い
ファイアフライが託してきた少女こそがエリー。
14歳という若さながら、場慣れした口ぶりで生意気な雰囲気を放つキャラクターです。
ジョエルもテスもエリーがどれほど重要な存在なのか詳しく知らず、とりあえずボストン市外の合流地点まで連れ出そうと行動を開始します。
やがてエリーの正体が明らかになると、そこには衝撃の事実がありました。
エリーは感染者に噛まれても発症しない“免疫”を持った特異体質者
だというのです。
この世界では感染が確認されただけで軍に始末されるほど恐れられているのに、エリーは数週間経っても普通に生きている。
それは、ワクチンや治療法がいまだ確立されていない世界において究極の希望かもしれない……。
ファイアフライはそれを信じて、エリーを研究開発の要として保護しようとしていたわけです。
ボストン市内での悲劇テスの最期
ジョエル、テス、エリーの三人でボストン市内を縦断し、ファイアフライとの合流地点となる議事堂を目指します。
道中、感染者が出没する地下施設を忍び歩いたり、軍の監視をかいくぐったりと苦しい旅路が続きます。
三人の関係性も当初はよそよそしく、ジョエルはエリーを「面倒な荷物」程度にしか見ていないようです。
口数多めのエリーと口数少なめのジョエルとの間には大きな溝が感じられます。
しかしようやく議事堂へたどり着いたとき、そこにはファイアフライたちの無惨な死体が散乱。
しかもこの混乱の最中でテスが感染していた事実が発覚します。
テスは自分の命が長くないことを悟り、
「エリーを安全な場所へ連れて行って。彼女こそ人類の希望かもしれない」
とジョエルに託し、軍の追っ手を食い止めるため囮となって死亡。
ジョエルはテスを残してエリーと共に逃亡し、心の中で何かが大きく変わり始めます。
“ただの仕事”として引き受けた少女を本当に連れて行く意味が出てきたのです。
生存者の孤独な生き方リンカーンのビル
テスを失ったショックと怒りを抱えつつ、ジョエルはエリーをファイアフライの仲間へ繋げられそうな人物として、弟のトミーを頼る決断をします。
トミーは元ファイアフライだったからです。
まずは移動手段を確保するため、ジョエルはリンカーンの街に住む知り合い“ビル”を訪ねます。
ビルは街中に無数のトラップを仕掛けて孤独に暮らす男。
人付き合いを極度に嫌い、
「生き残るためには誰も信用しない」
が信条です。
エリーとは初対面で衝突するし、ジョエルにも毒舌を浴びせます。
リンカーンの一角を探索して車の修理用パーツを集めるうちに、ビルの過去や、失ったパートナーの存在、そしてそれが理由でさらに自分の殻にこもっている姿が示唆されます。
彼は終始イライラした態度ですが、ジョエルに対してどこか同情や友情らしき感情も垣間見せる。
ビルは
「お前もいずれ大切なものを失うぞ」
「だから他人を巻き込みたくないんだ」
というような棘のある言葉を発し、ジョエルの内面を穿ちます。
結果としてビルは車を整備し、ジョエルとエリーを半ば投げやりに送り出す形で別れます。
このビルのエピソードはプレイヤーに
「他者と関わるリスクを避け、自分だけ生き延びるか」
「誰かとの絆を持ち、それゆえの危険をも受け入れるか」
というテーマを暗示します。
テスを失ったばかりのジョエルにとって、ビルの姿は極端な生存スタイルのひとつの象徴と言えるでしょう。
兄弟の悲劇ピッツバーグとヘンリー&サム
車を得たジョエルとエリーは西へ向かう途中、ピッツバーグの街でハンター(略奪者)の待ち伏せに遭い、せっかくの車を大破させます。
命からがら逃げ延びた先で出会ったのが
ヘンリーとサム
という兄弟。
ヘンリーは弟サムを守ることを最優先にし、冷静に行動しようと努める青年。
サムはエリーと同年代で内気な性格ですが、エリーと意気投合して他愛ない会話を交わす仲間になります。
四人は協力して街を脱出し、夜を迎えます。
やれやれと思った翌朝、エリーに襲いかかる“サム”の姿が。
実はサムが先日の戦闘で感染しており、もう手遅れだったのです。
必死に襲われるエリーをかばう形でヘンリーは弟サムを撃ち、その直後、あまりの絶望感に自らも命を絶ってしまいます。
この数時間前まで笑い合っていた兄弟のあまりにも急で悲惨な最期は、ジョエルとエリーの心を激しく抉ります。
エリーは
「私の血をサムの傷に与えれば治るかも」
と必死に試したのに何もできなかった事実が、更なる無力感とやるせなさを増幅させるのです。
この兄弟の悲劇は
「愛する存在を失う瞬間が再び来たら、自分はどうなるのか」
という恐怖を、ジョエルの心により強く呼び起こします。
エリーのほうも、友達に近い存在だったサムを救えなかった罪悪感を抱えることになり、この体験は後の行動にも影を落とす伏線として機能します。
“娘じゃない”と言いながらトミーとの再会
季節は秋へ。
ジョエルとエリーはワイオミング州で弟トミーとの再会を果たします。
トミーは妻マリアと協力して水力発電所を再稼働させ、そこでコミュニティを作って生活を営んでいました。
柵で守られ、仲間同士で助け合う様子は、荒廃した世界の中では珍しく思えるほどの平和です。
ジョエルはトミーに
「エリーをファイアフライに引き渡したいから手伝ってほしい」
と頼み、さらには自分ではなくトミーにエリーを運ばせることを打診します。
ジョエルがそこまでしてエリーを手放そうとするのは、テスやヘンリー&サムの死を目の当たりにし、
「もう誰かを失う痛みには耐えられない」
と思っているからです。
一方、エリーはそんな動きに気づき、
「みんな私を捨てる」
と激しく動揺し、ジョエルに対して怒りをぶつけます。
ここで印象的なのは、エリーがジョエルの亡き娘サラのことを話に出し、ジョエルが
「お前は俺の娘じゃない!」
と声を荒らげるシーン。
二人は衝突し、涙のような感情を爆発させますが、その後、ジョエル自身の葛藤とエリーへの愛着が勝り、結局
「俺が最後までこの子を連れて行く」
と決意し直すのです。
これによってエリーはジョエルから“見放された”と感じる不安を解消し、彼らの間の絆が深く結びつくターニングポイントとなります。
ファイアフライは既に撤退コロラド州の大学
トミーからの情報を得て、ファイアフライが拠点を築いているかもしれないコロラド州の大学へ向かう二人。
キャンパス内を探索すると、ファイアフライの痕跡はあるものの、すでに人の気配はありません。
メモなどから、ファイアフライは別の場所(ユタ州ソルトレイクシティ)へ拠点を移したと推測されます。
帰り際、大学に潜む盗賊集団と衝突。
ジョエルは乱闘の末に大怪我を負い、落下の衝撃で腹部を刺される形となります。
瀕死状態のジョエルを必死で馬に乗せて逃亡するエリー。
ここで物語は一気に冬へと転換し、エリー視点でのサバイバルが開始。
まだ子どもである彼女がジョエルを介抱しながらひとりで狩猟や物資探しをする姿が、厳しい雪景色を背景に描かれます。
冬瀕死のジョエルとエリーの孤軍奮闘
ジョエルが倒れている以上、エリーが動くしかありません。
森で鹿を狩っているうちに、デビッドという男と出会います。
彼は一見すると親切そうに見え、「ペニシリンを譲ろう」と申し出てくれますが、その背後には凶悪な事実が隠されていました。
デビッドたちの集団は人肉食に及ぶ極限の生存者集団であり、さらに大学でジョエルたちを襲った一派でもあったのです。
エリーは自分が囮になり、ジョエルの存在を悟られないように必死でデビッド一味を引き離そうとしますが、結局は捕まってしまいます。
デビッドの根城である山小屋に監禁され、“仲間になれ”という誘惑を振り払えば、今度は“食料”として殺されかねない状況に追い込まれる。
エリーは命からがら逃走を図り、最後は燃え盛るレストランの中でデビッドと対決。
恐怖と怒りのままナイフを振り下ろし、血にまみれて彼を倒します。
一方、ジョエルは徐々に回復し、エリーを探して雪山をさまよい、ギリギリのところで彼女を見つけ出します。
極度の恐怖に陥ったエリーを抱きしめ、
「ベイビーガール…」
というかつての娘サラに使っていた愛称で優しく呼びかける。
このシーンはジョエルの内面が娘を失ったときの絶望から救済されるような瞬間でもあり、エリーもこの言葉によってジョエルを完全に「父親」のように感じたでしょう。
二人の絆は最高潮に達し、もうお互いに欠かせない存在となったのです。
春ソルトレイクシティと最終決断
季節が春へと移り変わり、ジョエルとエリーはついにソルトレイクシティへ到着。
長い旅路の中で二人は大きく変わり、特にジョエルはエリーを心から愛し、守ろうとする姿勢をはっきり見せるようになっています。
エリーはデビッド事件のトラウマから少し塞ぎ込み気味ですが、放置された動物園に棲みついたキリンの群れに出会うシーンで一時的に表情を取り戻し、自然の美しさを感じる場面もあります。
これは荒廃した世界にもかかわらず、生きることの喜びをどこかで感じたいという彼女の願いを象徴していると言えます。
そして道中、ファイアフライの兵士に保護される形で病院へ案内され、再会したのはマーリーン。
そのときジョエルに告げられるのは衝撃の事実――
ワクチン開発にはエリーの脳を摘出する必要があり、結果的に彼女は手術で確実に死亡する
ということです。
マーリーンは「人類を救うためだ」と苦渋の表情で言い放ちます。
ジョエルは即座に反発し、「他に方法はないのか」と食い下がりますが、マーリーンも譲らない。
何よりエリーを眠らせたまま、本人の同意をろくに得ることもなく手術は実行されようとしている状況。
娘を失った過去を持つジョエルにとって、再び“娘同然のエリー”を奪われるなんて選択肢は到底受け入れられません。
世界よりも一人を選んだ男病院での大乱闘
ジョエルはファイアフライの兵士を次々と倒し、遂にはエリーが横たわる手術室へ突入。
執刀医や看護師たちが制止しようとするも、ジョエルは銃を構え、「近づくな」と言わんばかりに命を奪い、エリーを抱きかかえて脱出を図ります。
追いかけてくるマーリーンとも対峙し、彼女を銃で撃ち、最後はトドメを刺して立ち去るという強行突破を行うのです。
客観的に見れば、ジョエルは
世界の未来を潰し、罪なき医療スタッフを殺し、マーリーンの命も奪った凶行犯
とも言えます。それでもジョエルは「エリーを失いたくない」一心で、すべてを振り切りました。
ジョエルの嘘とエリーの「わかった」結末
搬送車で逃亡しながら目覚めるエリー。
彼女は意識が朦朧としながら、何が起きたのか問います。
ジョエルは
「他にも免疫者がいたが、誰もワクチンは作れなかった。だからファイアフライはあきらめて解散したんだ」
と嘘を伝えます。
エリーはその話を聞き、腑に落ちない様子を浮かべつつも黙り込みます。
物語ラスト、ワイオミング州のトミーの拠点近くで車を降りた二人が歩いていると、エリーが立ち止まり、ジョエルを呼び止めます。
「ジョエル、あのとき本当に何もなかった?私に嘘をついてない?」
と問い詰めるように見つめ、
「誓って」
と迫るのです。
ジョエルはほんの一瞬、苦しい表情をしながらもすぐさま
「誓うよ」
と返答。
エリーは
「……わかった(Okay)」
と答え、物語は幕引きとなります。
プレイヤーはここで大きな問いを突きつけられます。
世界を救う可能性を葬り去ってでも愛する人を守る行為は正義なのか?
ジョエルがついた嘘をエリーはどこまで信じたのか?
その答えは明示されず、“受け手が考え続ける”余韻が作品の魅力をいっそう引き立てます。
この強烈な余韻はリリース当初からゲーマーの間で議論となり、続編「The Last of Us Part II」で本格的に掘り下げられることになります。
再構築された表現PS5・PC版リメイク
「ラストオブアス1」はPS3版のオリジナルからPS4向けのリマスターを経て、さらにPS5およびPC向けにフルリメイクされた「The Last of Us Part I」が登場しています。
グラフィック面ではキャラクターモデルが刷新され、表情やアニメーションが大幅に向上。
ジョエルやエリーが話すときの細かな顔の動き、恐怖や悲しみが瞳に浮かぶ瞬間など、よりリアルな感情表現が確認できます。
また、感染者の造形もより生々しく恐ろしくなり、重厚感ある世界観に没入しやすくなりました。
PS5版はDualSenseコントローラーの機能を活かし、銃の発砲時にトリガーが重くなるなど、操作面での臨場感も大幅アップ。
振動やアダプティブトリガーによる細やかなフィードバックが、“本当に自分がサバイバルしている”という感覚を増幅させます。
ロード時間も極端に短縮され、死んでしまってもすぐリトライできるのはストレス軽減にも寄与しています。
一方、PC版ではグラフィック設定をより自由に調整できるため、高解像度かつ高フレームレートでプレイしながら、オリジナル版以上にきめ細やかな描写を堪能できます。
リリース直後には若干の不具合や最適化の問題も報告されましたが、継続的なパッチ配信により安定性は向上し、多様な環境で楽しめるようになりました。
シナリオやイベントの流れ自体はオリジナルと同じですが、
ラストシーンの執刀医
を含む一部キャラクターに続編との繋がりを強調する描写が微妙に加わっている点など、シリーズを一貫して見据えた再構築が成されています。
初めての人にはもちろん、既プレイでも十分に新鮮なプレイ体験を得られる仕上がりです。
エリーの過去を補完DLC「Left Behind」
本作には追加DLCとして「Left Behind」が存在し、PS4リマスター版やPS5・PCリメイク版には最初から同梱されているのも特徴。
DLCでは、エリーがかつて寄宿学校で同年代の少女ライリーと過ごした一夜が描かれます。
ショッピングモールを二人で探検し、イタズラしたり笑い合ったりする少女らしい微笑ましい光景が、
「感染蔓延の世界にもこんな時間があったのか」
と感じさせてくれます。
しかし、最終的には感染者に襲われ、
ライリーは命を落とし、エリーだけが感染を発症せず生き残る
というつらい顛末が判明。
エリーの心に根深い「生存者の罪悪感」が生まれた瞬間です。
この前日譚を知ることで、本編序盤でエリーが感染者に噛まれても恐れなかった理由、サムを救えなかったときの心の動揺、誰かを失うことへの強いトラウマなどが、より深く理解できるようになります。
ジョエルとエリーの絆の根底にある“失われた時間”や“もう戻らない人たち”への想いが、本編と相乗効果で際立つ仕掛けになっています。
ジョエルの愛は正義か人間ドラマとしての核心
「ラストオブアス1」を名作たらしめている最大の要因は、
ジョエルとエリーの関係性の変化
と、それが到達する苦しいエンディングにあるでしょう。
ジョエルは娘サラを失った痛みを20年間引きずり、最初はエリーを“荷物”程度にしか見ていませんでした。
しかし旅を通じて彼女を守るうちに、いつしか父性を取り戻し、最後は世界よりもエリーを選んで多くの命を奪います。
その行為は、愛の極致でもあり、同時に身勝手で暴力的な行為でもある。
一人の少女を救うために人類の未来を潰すなど、本当に許されるのか?
という深い倫理的問いが突きつけられるのです。
一方、エリーの視点では、自分が免疫を持っていることで
「何かの役に立てるかもしれない」
と思っていたはずです。
実際にエリーが選択できるシーンはなく、本人が
「自分の命を差し出しても世界を救いたい」
と考えていたかもしれない可能性をプレイヤーは想像せざるを得ません。
結局、エリーはジョエルにすべてを奪われたような形にもなっている。
にもかかわらず、彼女は
「誓って」
と問い、ジョエルの嘘を(おそらく)受け入れる道を選んだようにも見えます。
その沈黙には複雑な感情が渦巻いていることでしょう。
こうした二人の心理をプレイヤーが想像し、苦しみながらも
「もし自分でも同じことをしてしまうのではないか?」
と思わせるリアリティが本作最大の魅力。
どんなに美辞麗句を並べようと、大事な存在を失う恐怖と向き合うとき、人は一体何をするのか。
こここそが「ラストオブアス」の物語の真髄に違いありません。
「ラストオブアス」の世界観を彩る要素
- 感染者の脅威
“ランナー”“ストーカー”“クリッカー”“ブローター”など、段階別に変異する感染者。
特に視力を失いながら鋭敏な聴覚で狙ってくるクリッカーや、強靱な装甲を持つブローターなど、ホラーとステルスが融合した緊張感が魅力です。 - 人間同士の殺し合い
無政府状態の地域も多く、ハンターや盗賊が支配する街や、カニバリズムにまで手を染める集団がいるデビッドの一派など、“感染者”以上に人間が一番怖い存在として立ち塞がります。
銃を突きつけられ、物資を奪い合う過酷な描写が世界の凄惨さを際立たせます。 - ささやかな自然の美しさ
荒廃後、自然がビル街に侵食し、街路樹や草花が伸び放題。
動物が自由に歩き回り、大学構内に猿が生息しているシーンや、廃墟の動物園跡でキリンが優雅に立ち尽くすシーンなど、滅びかけた人間世界を尻目に自然だけが逞しく生きているのも印象的なギャップを生み出しています。 - 環境ストーリーテリング
建物の落書きや残されたメモ、配置された家具・物資などから、その場にいた人々がどんな生活を送っていたかを想像できる演出が多数。
ほんの数行のメモから短い悲劇を読み取れることもあり、“プレイヤー自身の想像力”で世界の広さと哀しみを補完する面白さがあります。
続編やドラマ版への広がり
本作で提示された世界観とジョエルの結末は、続編「The Last of Us Part II」(PS4向け)でより深く掘り下げられます。
そこではジョエルとエリーの関係がどう変化したか、人類社会の復興やさらなる崩壊がどう進むか、さらに重く複雑なドラマとして描かれ、多くの議論を呼びました。
また、HBOのドラマ版『The Last of Us』が2023年に公開され、ペドロ・パスカルがジョエル、ベラ・ラムジーがエリーを演じた実写作品として世界的に大きな反響を集めています。
ドラマ版はゲーム本編を忠実に再現しつつ、細部の設定やサブキャラの背景に追加要素が盛り込まれており、新たな視点で「ラストオブアス」の物語を楽しめる機会となっています。
ドラマ版を見た後に改めてゲームをプレイしてみると、“ゲームの演出だからこそ表現できる恐怖や感情”を再発見できるかもしれません。
愛、喪失、そして業本作が投げかけるテーマ
「ラストオブアス1」を語るとき、しばしば挙げられるのが
“愛ゆえの自己中心的行動”
というテーマです。
ジョエルは世界を救うためにエリーを差し出すよりも、自分が愛する一人の少女を生かす道を選びました。
それは多くの犠牲を伴い、他の誰かの人生を踏みにじり、人類全体の希望を奪うかもしれない行為でもあります。
そしてエリー自身も、ジョエルの嘘に感づきながら黙って受け入れたようなラスト。
そこにあるのは、愛される喜びと同時に、自分が“ワクチンになれなかった”ことで背負うかもしれない罪悪感――あるいは、「それでも今はあなたと一緒にいることを選ぶ」という複雑な心境です。
世界規模のディストピアを背景にしながらも、本作は極めて人間の内面にフォーカスしたドラマと言えます。
誰かを守りたい、失いたくないという欲求と、それによって生まれる倫理的問題。
愛は尊いが、同時にときに残酷さを伴う――そんな普遍的なテーマを、ゲームという没入度の高いメディアで圧倒的な説得力を持って提示するのが、本作最大の功績でしょう。
ラストオブアスという名作を体験する意義おわりに
ここまで「ラストオブアス1」のストーリーを、ネタバレを含めて結末まで詳細に解説し、登場人物たちの心理背景やリメイクでの強化要素にも触れてきました。
PS3オリジナル版が発売されたのは2013年。
当時から“ゲーム史に残る傑作”と称えられ、長年にわたり世界中でプレイヤーの心を揺さぶり続けています。
本作が単なる「ゾンビの出るサバイバルアクション」ではないのは明らかです。
恐怖やステルスの緊張感を超えて、
ひとりの中年男性と少女の心の交流
を核に描くロードムービー的なドラマでもあります。
プレイヤーはジョエルを操作しながら、同時に彼の内面を覗き見し、最終的にはジョエルの究極の決断を自ら下したような感覚を味わう。
その結果、もし自分が同じ立場なら同様の行動を取ったかもしれない…
と思い当たれば、ジョエルを一概に責められない苦しさが生まれ、長い余韻が残るのです。
未プレイの方には、ぜひリメイク版などで今からでも遅くないので実際に遊んでみることをおすすめします。
プレイヤー自身の行動がジョエルとエリーの旅を体験する形となり、文章や映像で読むだけでは味わえない緊迫感や感情の揺れを実感できるでしょう。
そしてエンディングへ至ったとき、あなたは彼の選択をどう思うのか、エリーの「わかった」にどんな感情を見出すのか――それこそが本作をプレイする意義だと言えます。
既にプレイ済みの方も、PS5版・PC版のリメイクに触れてみると、新たなグラフィックや演出で再び感動を呼び起こすはずです。
もしかしたら初回とは違う感情が湧いたり、新たな考察に辿り着いたりするかもしれません。
さらにDLC「Left Behind」や続編「Part II」、HBOドラマ版などを通じて、この壮大な“ラストオブアス”の世界観をより深く堪能し、多角的に語り合えるのも本シリーズの醍醐味でしょう。
世界を滅ぼした寄生菌の恐怖や荒廃の絶望を、ジョエルとエリーはどう乗り越えたのか――彼らが選んだ道は本当に救いになるのか――その答えを探す行為自体が、この作品における最大の魅力でもあります。
これほど心揺さぶる“旅”を味わえる作品は、そうそう多くないはずです。
もし本記事を最後まで読んで、さらに興味が深まったなら、あなた自身の目で「ラストオブアス1」の世界を確かめてみてください。
感染者との戦闘で息を飲み、誰かの裏切りに胸を痛め、そしてジョエルとエリーのやりとりに微笑んだり涙したりする。
そのすべてが、
“崩壊した世界で見つける一筋の光”
をあなたの中に宿してくれるかもしれません。
そしてプレイし終わったあとに、その“光”を手放すか守り抜くかは、きっとあなた自身の物語になっていることでしょう。