シャドウハーツ1は、2001年にPlayStation 2向けとして発売されたダークホラー系RPGです。
歴史要素とオカルトが融合した独特の世界観が魅力で、物語は1913年から1914年にかけての現実世界(特に中国大陸やヨーロッパ)を舞台に展開されます。
しかもただの「歴史ベース」ではなく、吸血鬼、陰陽術、さらにはクトゥルフ神話的な禁断の魔術が盛り込まれ、好きな人にはたまらない“闇とゴシック”の香りが満載。
ここでは、そんなシャドウハーツ1のストーリーを「最初から結末まで」完全にネタバレしつつ、その背景やテーマをじっくり深掘りします。
どんな怪物よりも自分の寝癖のほうが怖いという方や、毎日の家事・仕事が忙しい中でゲームをなかなかプレイできないという方でも、この記事さえ読めば
「もうシャドウハーツ1のストーリーは手に取るようにわかるじゃないの」
と言っていただける…はずです。
どうぞお気軽に読み進めてください。
なお、本作の結末はマルチエンディング(2種類)を採用し、後に発売された続編との関係もなかなか刺激的です。
このへんも余すことなく解説するので、
「ゲームで謎を自分で解きたい」
という方は要注意。
とはいえ、大正時代の空気感やオカルトホラーが好きなら、ネタバレを知っていても十分に楽しめるはず。
「語りつくされてからが本番」とも言われる世界なので、ある種の煮込み料理のように時間をかけて味わっていただければと思います。
注意
以下、数多くの“ネタバレ爆弾”を置きまくりますので、そっとお鍋のふたを開けるつもりでスクロールしてくださいね。
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歴史とオカルトの融合大まかな舞台設定
本作の舞台は、第一次世界大戦が勃発する直前の1913~1914年頃の世界。
史実では列強が中国大陸に触手を伸ばし、日本軍がアジアに勢力を拡大し始めた時代です。
開発スタッフは、この「暗く不穏な時代の空気感」をベースに、ゴシックホラーを上乗せ。
「もし当時、歴史の裏で陰陽師や魔術師が暗躍していたら?」
という“もうひとつの歴史”を描くというわけですね。
もっとも、ただ歴史の皮をかぶせているわけではなく、
実在の事件や実在の人物をモデル
にしたキャラクターが登場する点が大きな特徴となっています。
例えば、東洋のマタ・ハリと呼ばれた川島芳子や、実際にスパイとして歴史に名を残した有名人を連想させるマルガリータ・G・ツェル(マーガレット)などが続々登場します。
こうした、史実かフィクションか境目が曖昧なキャラクターが普通に魔物と戦っちゃうあたりに、
「シャドウハーツならでは」
の怪しげなロマンが漂っているのです。
ストーリー全体に強いホラー要素がある一方、時々シュールなギャグシーンが盛り込まれるため、全編どんより重苦しいわけではありません。
あまりの落差に目をまんまるにしてしまうこともあるほどですが、これは開発者いわく
「ずっと陰鬱だと救いがなくなるので適度に緩めたかった」
という狙い。
家庭で例えるなら、毎日こってり味の唐揚げだとしんどいから、たまに爽やかなお漬物も出しますよ…
みたいな感じでしょうか。
そんな「いい意味での緩急」こそ、本作を最初から最後まで飽きずに遊べる大きなポイントだったりします。
ストーリー序盤1913年のフランス・ルーアンから中国満州へ
ルーアンでの怪事件とアリス誘拐
物語の始まりは、フランスのルーアン。
英国人神父モーリス・エリオットが惨殺され、娘アリスが行方不明になる
という猟奇的な事件が報じられます。
このとき、犯人は
アルバート・サイモン枢機卿(偽ロジャー・ベーコンとも名乗る)
という謎の魔術師。
彼がモーリス神父の高い白魔法と、娘アリスの霊力を狙ったことが発端でした。
瀕死のモーリス神父は必死でアリスを遠くへ逃がそうと、霊的な術を行使。
その結果アリスは中国・満州へ強制的にワープされるような形で飛ばされます。
しかし、その地で倒れ込んでいた彼女を拾ったのは運悪く日本軍。
「強力な霊能力者を軍事利用できるかもしれない」
と踏んだ軍は、アリスを列車で奉天へ移送することにしました。
満州列車での主人公ウルとの出会い
そこへ唐突に現れるのが主人公、ウルムナフ・ボルテヒュウ。
作中では通称「ウル」と呼ばれ、ぶっきらぼうで乱暴な口調が印象的な若者です。
しかし“謎の声”に導かれ、手にした“魔物との融合(フュージョン)能力”を駆使して、生きた人間ごとバリバリ倒していくところが一味違います。
甘い物が好きとか嫌いとか、それ以前に「少年漫画的アンチヒーロー」の空気感をまとっているわけですね。
満州を疾走中の列車内でアリスを狙う偽ロジャー・ベーコンが襲撃し、血で血を洗う惨劇が展開されますが、そこへウルが殴り込み。
魔物の力を身に宿したウルVSアルバート・サイモンの使い魔、というド派手なバトルが始まります。
最終的にはアルバートに圧倒されかけながらも、アリスから放たれた聖なる光が一瞬アルバートをひるませ、ウルはアリスを抱えて列車から飛び降り脱出。
こうして「とりあえず危機一髪」な出会いが成立します。
アリスは死んだ父の無念も抱え、わけがわからないまま満州まで飛ばされ日本軍に囚われる羽目になっていました。
しかしウルという乱暴だけど不思議な青年に助けられた以上、もはやこの危険な世界では彼を頼るしかありません。
ここから「ウル&アリス」という主役コンビの逃亡&戦いの日々が始まるわけです。
ちなみに、ウルがアリスを助けたのも
「脳内で聞こえる謎の声に従ったら、なんかこうなった…」
程度の自己説明。
どう転んでも行き当たりばったり感が漂ってるのが妙に人間くさいキャラクターですね。
朱震&マルガリータの加入、大連から上海へ
列車を飛び降りたあと、ウルとアリスは満州の追手を振り切るように南下し、奉天から大連に向かいます。
その道中で2人が出会う仲間が、中国人の老陰陽師・朱震(ジュウジェン)と、金髪美女スパイマルガリータ・G・ツェルという濃いキャラたち。
- 朱震はかつてウルの父・日向甚八郎と面識があり、彼の“魔物融合の才能”を知る数少ない人物。
見た目は人のいいおじいちゃん風だけど、その陰陽術は実力者で頼もしい存在。 - マルガリータは某列強の諜報員で、飄々とした態度で
「あなたたちの旅に興味あるわ」
と言いながら勝手に同行してきます。
彼女の正体は後々「やっぱりあの人?」みたいな歴史的モデルが明かされて、多くのプレイヤーを驚かせました。
こうして4人パーティとなったウルたちは、大連から船に乗り、最終的に中国随一の大都市・上海を目指すのです。
時は1913年、列強が入り乱れる上海は“魔都”と呼ばれるほど混沌としており、そこでとんでもない陰謀が渦巻いていたのでした。
上海編鬼門擁霊祭とアルバートの暗躍
デュエイとウルの父の因縁
上海に着いたウルたちが知るのが、陰陽師・德壊(デュエイ)という人物の存在。
朱震の兄弟子であり、かつて15年前にウルの父・日向甚八郎が中国で戦った相手でもありました。
15年前の1899年、デュエイは“鬼門御霊会”なる大儀式を行い、世界に甚大な災厄をもたらそうとし、日本や中国すら巻き込む大事件を起こしかけたのです。
甚八郎は妻(ウルの母)と幼子ウルを伴い中国に来ていたが、その闘いで命を落とします。
母もデュエイ配下の魔物に殺され、ウルはそのショックで魔物融合の力を覚醒させた――という壮絶な過去が明かされる流れですね。
ウルはずっと
「父親が母を見捨てて逃げたのだ」
と恨み続けていましたが、朱震から真相を聞かされ、父は世界を守るためにデュエイと戦い散った英雄だったと知ります。
怒りや恨みはそこで少しずつ昇華され、ウルは今度こそ
「自分がデュエイを倒し、鬼門の儀式を阻止する」
という決意を抱くのです。
もっともウルは口下手なので、特別熱い言葉で誓うわけではなく
「ならオレが蹴りつけるしかねえな」
みたいな奔放な言い回しで話を進める感じ。
いやはや、こんな荒っぽい青年がメインヒーローのRPGってなかなか珍しい気もしますが、そのぶっきらぼうさが“痛快キャラ”として好かれる理由でもあるでしょう。
川島芳子中佐との駆け引き
当時の上海では日本軍の影響も強く、中でも歴史上「東洋のマタ・ハリ」として有名な川島芳子(モデルは実在の川島芳子)が登場します。
軍人としての地位を利用し、中国大陸への進出を狙う手段としてウルたちに協力するフリをしながら、内心は
「アリスの力を日本軍が掌握できればお得…」
と画策するという、なかなかの腹黒さ。
彼女は“フランス人形のような妖艶さ”と“軍人としての冷徹さ”を併せ持ったキャラ。
しかもウルに淡い好意を寄せているような仕草もあり、複雑な乙女心を感じさせます。
そのあたりが重苦しい中でも妙に艶やかで、ある種の大人の魅力を発散している…
と思いきや、戦闘シーンではバッサリ敵を斬り捨てる…
という両面性が上海編をさらに盛り上げる要素となっています。
上海魔都の崩壊天凱凰(てんがいほう)の召喚
さて、デュエイに挑むウルたちですが、悪巧みはさらに先に進んでいました。
そこへ黒幕として本格的に登場するのが、冒頭から何度も暗躍してきたアルバート・サイモン(偽ロジャー・ベーコン)です。
実はデュエイの行動はアルバートに利用されていただけで、アルバートはより大きな目的“天凱凰(てんがいほう)”という邪神級モンスターをこの世に召喚しようとしていたのです。
デュエイを倒して一安心…
というところでアルバートが横から
「儀式の仕上げは私がやる」
と割り込み、強力な呪術で“天凱凰”を現実世界に引きずり出すと、上海の街は大火災と大崩壊に見舞われます。
炎に包まれる上海のビル群、その屋上に蠢く黒い鳥のような異形。
もう絶望度で言えばやけくそ状態です。
ウルは魔物融合の力で天凱凰を取り込み封じようとするものの、相手があまりに強大すぎるため返り討ち。
建物の崩壊に巻き込まれ、ウルは行方不明となってしまいます。
これが前半最大の衝撃ですね。
上海は壊滅し、川島芳子も日本軍の権力争いに巻き込まれるかたちで暗殺される(公式の記録でもそう語られる)。
マルガリータや朱震、アリスらはかろうじて脱出できたものの、ウルが消えてしまった――というショッキングな結末で序盤が閉じる形です。
もうこの時点でプレイヤーは
「えっ主人公が死んだ…?」
と度肝を抜かれるわけですが、本作はここから後半パートがスタートします。
何とも酷な展開。
ヨーロッパ編ウル喪失からの再集結
プラハ近郊と吸血鬼キース
上海壊滅からしばらく後、アリスと朱震はヨーロッパへ渡り、チェコのプラハ近郊に潜伏していました。
ウルを失った悲しみも癒えぬまま、偽ベーコン=アルバートを追うかどうかも明確には決められない状況。
けれど「アルバートの野望はまだ続いている」という危機感は残っています。
そんな中、近くの村で「吸血鬼が出るぞ」と大騒ぎになり、村人たちから調査を求められる形で事件に関わるアリスたち。
実際にそこにいたのは、400年以上生きているらしい吸血鬼貴族キース・ヴァレンタインでした。
キースは眠りについていたものの、自分の城に魔物が入り込んできたため起きざるを得なかったと語ります。
もちろんほとんどのRPGで「吸血鬼=敵」のイメージは強いですが、本作では紳士的かつクールな仲間キャラとして登場。
半ば成り行きでアリスたちと協力することに。
吸血鬼がここまで自然にパーティメンバーとして混じるRPGもなかなか珍しいですが、そこがシャドウハーツの面白さでもあります。
城を調べてみると、そこには暴走状態のウルが鎮座。
天凱凰の力を取り込んでしまったせいで制御不能に陥り、半ば魔物に取り憑かれたような状況でした。
意識のないまま城を荒らし回っていたため、キースが目覚めるきっかけにもなったようですね。
アリスの決死行ウルの精神世界での救済
ウルとの再会は嬉しい…が、彼は完全に自我を失って凶暴化中。
そこでアリスは高い霊力を使い、ウルの精神世界へ飛び込み、
直接彼の魂を呼び起こす
という大胆な手段を取ります。
ウルの心の中は、これまで倒してきた無数の魔物たちの“怨念(マリス)”が溜まりに溜まっている地獄絵図。
それを具現化したかのような“狐面の怪物”がウルの命を執拗に奪おうとしており、
「おまえもう死んだほうがいいよ…」
と囁く強烈な自殺誘導をかけてくるのが怖いところ。
ここでアリスは、
「ウルが死ぬなら私も死ぬ。むしろ私の命を差し出す代わりにウルを救ってほしい」
と死神に“魂の契約”を申し出ます。
いわば、ウルの死を回避するために自分が身代わりになるという究極の自己犠牲。
これが後のエンディング分岐に直結する大きな布石なのです。
契約を結んだ瞬間、ウルは正気を取り戻し復活、一方でアリスはいずれ死神に命を奪われる運命を抱え込む。
プレイヤーとしてはここで「そ、そんな…!」と切なすぎる展開。
しかし本作のテーマである“希望”と“愛”が強烈に現れる名シーンでもあります。
常に明るく、どこかあどけない雰囲気のアリスが実はとことん強い意志を秘めているという、ヒロインらしからぬ(?)大覚悟を見せるのです。
蘇ったウルは改めて仲間たちと再会。
吸血鬼キースも新たなメンバーとなり、アルバートの陰謀を阻止する旅を再開します。
上海後のどん底から一気に復活へ、というこの展開は実際胸アツで、プレイヤーとしても「ここからリベンジだ」と燃え上がるところでしょう。
アルバート追跡ルーアン・ロンドン編とクーデルカ母子
ルーアンの孤児院跡、ハリー少年との邂逅
マルガリータが単独でアルバートの行方を探った結果、フランス北部・ルーアンに手掛かりがあると判明。
冒頭、アリスの父が殺された地でもあるルーアンへ戻ってみると、そこには“ハリー”という超能力少年が潜んでいました。
ハリーは複数の孤児たちを率いてスリを働き、生き延びている強かでちょっと生意気な少年。
実は彼、前作『クーデルカ』の主人公クーデルカの息子であり、母譲りの霊力を持っているのです。
ルーアンの孤児院跡は、かつて邪教的な儀式が行われ、院長が禁断の書物「エミグレ文書」を使って人外の怪物を召喚しようとした恐怖スポット。
ハリーはその事件を何とか生き延びましたが、多くの仲間が犠牲になりました。
ウルたちは怪物を倒す際にハリーを助ける形となり、彼が「母クーデルカの消息を追ってほしい」と願い出ることで同行する流れに。
ハリーいわく、クーデルカは教会系の組織に“異端”と認定され、拷問や監禁を受けているらしい。
その場所がバチカンの裏ルートにある「カリオストロ療養所(廃病院)」という絶海の孤島だというのです。
カリオストロ療養所での拷問とアルバートの脅迫
ウルたちはこの地下療養所へ向かい、囚われのクーデルカを救出しようとしますが、そこに現れるのがやはりアルバート。
クーデルカは強大な霊力を持つ“闇の魔女”として拷問を受け続けていましたが、それでも屈服しない強さを見せます。
ハリーは母を救いたい一心で感情が爆発して制御不能に陥りかけますが、ウルたちが必死になだめ、クーデルカも再会を果たします。
しかし、アルバートはハリーを人質に取ることでクーデルカに協力を迫り、そのまま転移魔術を使ってどこかへ消えてしまう。
瀕死のクーデルカはウルたちに
「アルバートが次に向かうのはネメトン修道院という因縁深い場所だ」
という情報を何とか伝えます。
前作『クーデルカ』の舞台にもなったウェールズ地方の廃墟――そこには古代からの邪悪な力が眠っている。
それを利用しようとしているアルバートを止めるため、一行は再び旅路を急ぎます。
クライマックスネメトン修道院と超神(メタゴッド)の召喚
本物のロジャー・ベーコンとの出会い
ついに英国ウェールズ地方にある“ネメトン修道院”へ突入したウルたち。
そこに出迎えたのは、白髭をたくわえた小柄な老人――本物のロジャー・ベーコンでした。
アルバートが偽名で名乗っていた人物こそこのベーコン翁であり、中世ヨーロッパから不老不死のまま生き続けている伝説の錬金術師。
アルバートはベーコンの弟子だったが、教会から異端扱いされたり社会の不条理に苦しむうち師を裏切って闇落ちし、自分の勝手な理想を追い求めるようになってしまったという背景が語られます。
ベーコン翁は、弟子アルバートの暴挙を止めるために自分が封印してきた地下遺跡への道を開き、ウルたちに協力を申し出ます。
この人、見た目は小柄なヨボヨボじいさんに見えますが、不死の錬金術師というだけあって相当な実力者。
しかも真面目な学者というよりはちょっとコミカルな動きをする場面もあって、アルバートの邪悪さとの対比が面白いです。
浮上するネアメートと超神(Meta-God)の脅威
修道院の地下には、古代の空中要塞「ネアメート」が封印されていました。
これこそアルバートが真に狙う舞台装置。
宇宙から“超神(Meta-God)”を呼び出すため、ネアメートという巨大な石造遺跡を宙に浮上させ、接点をこじ開けようとしているのです。
話がスケールでかすぎて若干頭が追いつかないかもしれませんが、要するに“クトゥルフ神話”を彷彿とさせる古代神を地上に顕現させて世界を破壊し、アルバートは新世界を創造しようと目論んでいるわけです。
ウルたちが地下最奥部にたどり着いた頃には既にアルバートが儀式を最終段階まで進めており、ネアメートは大地から切り離されて空へと浮き上がっていきます。
バッと上空にそびえ立つ逆さ城みたいなイメージ。
ここでベーコン翁の協力によりウルたちは一気にネアメート内部へ転移。
まさに最終決戦の幕開けとなります。
最終決戦とエンディング分岐
アルバートとの激闘
ネアメートの最奥にはアルバート・サイモンが陣取り、宇宙の彼方から“超神(Meta-God)”を呼び出そうとしていました。
アルバートの独白によれば、
人間社会の不条理、貧困や差別、戦争の理不尽
に絶望し、
いっそ全部壊せばみんなが平等になるのでは
と考えたという。
師ロジャー・ベーコンに諌められたにもかかわらず、異端として処罰され自暴自棄になり、今の破滅的思想に至った――という悲しい背景が垣間見えます。
しかしだからといって何千万もの人間を巻き添えにする「世界破壊計画」が許されるはずもなく、ウルたちは激しいバトルでアルバートと未知の邪神に立ち向かう。
そして、ついにアルバートは力尽き、呼びかけられかけた超神も打ち破られます。
アルバートは消えゆく間際に、
「人間はどうせ戦争で地獄を見ることになる…」
と不吉な予言を残し、嘲笑うかのように散っていくのです。
その瞬間、ネアメートは崩壊を始め、ウルたちは勝利こそ収めたものの本当に世界が救われたのかどうか、一抹の不安が残ります。
歴史の無情さ第一次世界大戦勃発
物語のエンディング直前、テロップなどで1914年に起こるサラエボ事件やオーストリア皇太子暗殺の件が示され、結果的に第1次世界大戦が勃発してしまう流れが語られます。
つまり“邪神の降臨は阻止できても、人類が自分たちで始める戦争の惨劇は止められない”という皮肉。
アルバートが予見した「人間こそ最大の怪物」は、ある意味、史実によって証明されてしまうわけですね。
これはかなり後味の悪い事実ですが、逆に言えば
「どれほど壮大な魔物を倒しても、社会の闇を完全に消すことなどできない」
という“シャドウハーツ”らしいテーマが見えてきます。
ダークな世界観が好きな方にはたまらない展開。
ご近所の奥様同士の小さな揉め事とか、夫婦ゲンカとかも案外解決しないまま続いていくものですよね…
という現実を思い起こさせる(比べるのもどうかと思いますが)。
アリス生存グッドエンド
さて、本作の目玉要素として、ラストシーンが2通りに分岐します。
その分岐を左右する大きなトリガーが“ウルの精神世界に登場した死神(狐面の怪物)を倒していたかどうか”。
中盤でアリスがウルを救う際に交わした“死神との契約”がここで響いてきます。
グッドエンドを迎えるには、
- 中盤イベントで死神をしっかり撃破している
- いくつかの隠し要素を踏んでいる
という条件が必要です。
そうすると結末では、世界を救い終えたウルとアリスが列車に乗り、アリスは穏やかに目を覚まして微笑み合います。
死神との契約が無効化されたことで彼女の命は救われ、2人が新たな旅へ向かう幸せそうな光景が描かれるのです。
この締め方は非常に温かく、テーマである“希望”を強く感じさせます。
「こんな恐ろしくて長い戦いを経験した彼らも、やっと平和な人生を歩めるんじゃないか」
とホッと胸をなでおろすファンも多いはず。ゲームを苦労してクリアした甲斐があるハッピーエンドですね。
アリス死亡バッドエンド
一方、隠しボス退治などを逃してしまうと、バッドエンドへ突入。
こちらの展開では列車の座席でウルがふと目覚めると、
隣のアリスが既に冷たくなっている…
という衝撃的な描写が流れます。
死神が契約を履行し、アリスの魂を刈り取ってしまったのです。
ウルの慟哭だけがこだまするまま、列車は暗いトンネルへ走り抜けていく。
何とも胸を締めつける悲劇的ラスト。
実は、このバッドエンドが
公式続編『シャドウハーツ2』へ直結する正史ルート
とされます。
つまり、多くのプレイヤーが望む
グッドエンドが公式に「本当の物語」として続かない
という斬新な設定で、当時かなり物議を醸しました。
続編では「アリスを失ったウル」が主人公として再び登場し、最愛の人のいない世界をさまよう哀しみが大きなドラマになっています。
ゲーム的には
「こんなに辛いルートが正史なの?」
と複雑な気持ちになりがちですが、そのぶんシャドウハーツ2はさらに深みのある物語として多くのファンを虜にしました。
キャラクターとテーマの深掘り
シャドウハーツ1には、独特の個性を持つ主要キャラクターがたくさん登場し、それぞれが何らかの悲しみや目的を抱えています。
ここでは、特に顕著なメンバーを再確認しつつ、本作の根幹をなすテーマを考察してみましょう。
ウル(ウルムナフ・ボルテヒュウ)
- 半ばアウトロー気質だけど、実は仲間思いで情に厚い
- 幼少期に父母を亡くし、魔物融合能力を得て以来、放浪生活を送る
- アリスとの出会いを機に世界の命運を背負う立場になっていく
彼は母を殺したデュエイへの復讐心を抱きつつ、上海での失敗や自分の至らなさに苦悩もする。
そんななかで父甚八郎の真実を知り、今度は「自分が守る側になる」と一歩成長。
「アリスを助けたい」
という気持ちは不器用な形でしか表せませんが、それがかえって生々しい人間らしさを感じさせます。
アリス・エリオット
- 神父の娘で白魔法や霊媒師としての資質が高い
- 父を目の前で殺され、フランスから中国へ飛ばされる数奇な運命
- ウルを救うために自分の命と魂を投げ出す覚悟を持つ
慈愛に満ちた優しい少女というイメージがある反面、その自己犠牲はかなり過激。
普通に考えればもっと取り乱しても良さそうですが、彼女は心が強く、状況に立ち向かう芯の太さを示します。
物語全体の“癒やし”役にもなりつつ、ウルの内面を大きく変えていくキーパーソンです。
朱震(ジュウジェン)
- 中国の老陰陽師で、ウルの父の戦友
- お調子者風だが、実は相当な修行を積んだ実力者
- ウルを父親の真実へ導く“指南役”として物語を支える
彼の存在はパーティの精神的支柱であり、上海編ではデュエイに対する個人的因縁も描かれます。
一方でギャグシーンでの立ち回りも結構多く、シリアス一辺倒になりがちな展開を和ませる大切なキャラクターでした。
マルガリータ・G・ツェル
- 金髪碧眼の西洋人スパイ。任務のためなら何でもやりかねない
- 飄々としているが戦闘能力も高く、旅の資金面でも助けてくれる
- 実は“マタ・ハリ”本来の名前をもじった存在という説が濃厚
彼女は、ゲーム的には銃や爆弾など派手な手段を操る火力担当でもあり、会話では鋭いツッコミを入れて場を盛り上げる。
暗いストーリーが続く中でも、辛辣なジョークやウルへの当たりの強さなどを使ってバランスを取ります。
キース・ヴァレンタイン
- 数百年生きている吸血鬼貴族
- 古城で眠りを貪っていたがウルの暴走で目覚める
- まるで貴公子のような姿をしており、冷静沈着
彼が仲間になる流れも若干不思議ですが、吸血鬼ならではの長命な視点とクールさがパーティ内に新しい空気をもたらします。
闇の者と人間の協力という要素も、“異なる存在同士の融合”を象徴するギミックかもしれません。
クーデルカ・イアサント
- 前作『クーデルカ』の主人公で、闇の霊術師として名高い
- 今作ではハリーの母として登場し、拷問に耐え続けている
- ウルを精神世界へ導く“謎の声”の正体でもある
正直、クーデルカをしっかり知るには前作をプレイしたほうが理解が深まりますが、シャドウハーツ1単独でも
「やたら強い女性霊媒師が拷問に耐えてた」
と印象づけられます。
息子への愛情が行動原理となり、最後までアルバートに屈しない意志を見せる姿がカッコいい。
アルバート・サイモン(偽ロジャー・ベーコン)
- もともとはロジャー・ベーコンの弟子
- 社会への絶望から魔道に溺れ、闇の道を歩む
- 人類を一度滅ぼし、理想の新世界を創ろうと企む
単なる悪役ではなく「世界の不条理」を嘆き、「人こそが最大の怪物」と考える人物。
彼の思想は極端かつ危険ですが、後に起こる大戦を見通すあたりは洞察力も高い。
本作の陰鬱な雰囲気を最大限に演出するボスと言えるでしょう。
テーマ考察希望と喪失の物語
本作のプロデューサーや開発陣は
シャドウハーツ1は“希望”がテーマ
と公言しています。
これはどういうことか。
プレイヤー目線だと
「いやいや、母親が目の前で殺されるわ、上海は火の海になるわ、アリスは死ぬかもしれないわ…めちゃくちゃ暗いんだけど?」
と感じるかもしれません。
しかし、そこがポイントです。
どれほど暗く悲惨な状況になっても、ウルたちの行動は最後まで諦めない。
アリスを見捨てず、世界を守ろうとして闘う。
暗闇に光を差す行為こそ希望の体現にほかならず、プレイヤーはその過程で
「人は絶望的状況でも進もうと思えば進める」
というメッセージをくみ取れるのです。
また、上海が崩壊しようが第一次世界大戦が起ころうが、少なくとも“邪神の世界滅亡”は止められた。
人間同士の戦争まで止めることはできなくとも、全て投げ出すよりは一歩でも前進すれば、守れるものはある…
といったニュアンスが“希望”と言えるかもしれません。
一方で、バッドエンドが正史となった続編につながる要素は“喪失”の強調。
愛する人を救えなかった主人公を描くというのは、一見ユーザーに対して厳しい世界設定ですが、そこにこそ「それでも生きていくしかない」というさらなる強いメッセージが生まれます。
悲しみやトラウマを抱えたままでも、人は意外と前を向いていける。
シャドウハーツ2はそんな壮大な“失われた愛への祈り”を描く物語となり、本作で示された希望と喪失のテーマをより深掘りしています。
ゲームシステムと雰囲気の相乗効果
本作はストーリーだけでなく、戦闘システム“ジャッジメントリング”や“サニティポイント(SP)”なども独特です。
ジャッジメントリングとは、攻撃や回復などのアクション判定を
回転するリングとタイミングよくボタンを押す
ことで行う仕組み。
このため、プレイヤーの操作ミス次第で攻撃が空振りしたり、戦況が大きく変わります。
SPは正気度を示す数値で、戦闘が長引くと減少し、ゼロになると“理性崩壊”でキャラが暴走します。
この“闇に呑まれる”リスクがシナリオともリンクしており、例えばウルが抱える「マリス」の概念とゲームメカニズムがシンクロしているわけです。
何が言いたいかというと、
「魔物ばっかり倒していたらこっちもおかしくなってしまうぞ!」
という設定が、実際にゲーム上の緊張感として体感できる面白さがあるのです。
また、フィールドやダンジョンの雰囲気もホラー感が強く、不気味なBGMや血なまぐさいテクスチャが容赦なく配置されています。
かと思えば村人との会話でギャグが飛び出すシーンもあり、一度ハマるとそのギャップがクセになる人が多い。
個人的には、夜中にプレイするときの「背後がちょっと怖いけど笑える」みたいな独特のテンションがやみつきになりそうです。
全体を貫く魅力唯一無二のゴシックRPG
シャドウハーツ1は、決して万人受けする作品ではなかったかもしれません。
発売当時(2001年)はまだPS2時代の黎明期で、ホラー系RPGが大衆に受け入れられるかどうか手探り状態でした。
さらに、ゴシックかつ歴史絡みの複雑な設定、そしてシリアスとギャグを急に切り替える独特の作風には好き嫌いがあるのも事実。
しかし、だからこそ“刺さる人にはとことん刺さる”という強烈な個性を確立した作品だとも言えます。
・ゴシックな世界観+第一次大戦前夜の史実要素
・陰陽道と西洋オカルトの混在
・ハードな猟奇描写+コミカル要素の両立
・バッドエンドが続編の正史になってしまう大胆さ
これらの組み合わせは、本作を他のJRPGと一線を画す存在へと押し上げました。
そして現在では、続編「シャドウハーツ2」、外伝的作品「シャドウハーツ・フロム・ザ・ニュー・ワールド」などを含めて“シャドウハーツシリーズ”として語られ、隠れた名作RPGの筆頭格に挙げられることも多いのです。
暗闇の中でも見出される希望まとめ
ここまでシャドウハーツ1のストーリーを頭から結末(エンディング2種)まで細かく解説してきました。再度ポイントを整理しましょう。
- 導入
フランス・ルーアンで神父が惨殺され娘アリスが飛ばされる
⇒満州の列車内でアリスが捕らわれそうになるところを主人公ウルが救出 - 中国編(上海)
ウルの父を殺したデュエイとの因縁、アルバート・サイモンの真の目的
⇒鬼門擁霊祭で“天凱凰”召喚、上海崩壊、ウル行方不明 - ヨーロッパ編(プラハ・ロンドン)
ウルは暴走状態で発見され、アリスが自らの命と引き換えに救出
⇒ハリーやクーデルカなど前作関連キャラの介入、アルバートを追う - 最終決戦(ネメトン修道院~ネアメート)
本物のロジャー・ベーコン参戦、アルバートの超神召喚を阻止する戦い
⇒アルバート撃破、ネアメート崩壊、世界を救うも戦争は止められない - エンディング
グッドエンド:アリス生存でウルと列車旅
バッドエンド:アリス死亡しウル慟哭 → これが続編の正史
邪神や魔物を倒せても人類同士の戦いは止められず、歴史は第一次世界大戦へ突入していく。
そこに“世界の理不尽さ”を突きつけられる一方、ウルやアリスの行動は最後まで“捨てられない希望”を体現している――そんなコントラストがシャドウハーツ1の本質です。
もしあなたがダークファンタジーやゴシックホラーが好きで、なおかつ史実を題材にした物語に興味があるなら、本作はぜひ一度プレイしてみてほしい作品です。
グラフィックやUIなどは今の時代から見るとさすがに古さを感じる場面もあるかもしれませんが、そのストーリーと独特の世界観には普遍的な魅力があります。
加えて、「ジャッジメントリング」というシステムによる白熱の戦闘も体感でき、プレイヤーのアクション要素がRPGにうまく融合されている点も見逃せません。
さらにこの物語の先を知りたければ、ぜひ続編「シャドウハーツ2」に手を伸ばすとより深い感動や衝撃が味わえます。
本作をバッドエンドで終えた後日談となるため、
「えっ、そういうことになっちゃうの!?」
と目を丸くする展開が多数待っています。
でもそこを乗り越えてこそ、ウルという主人公がどう成長するか、プレイヤーは知ることができるわけですね。
余談深夜プレイとホラーの相性
シャドウハーツシリーズを語るうえで忘れてはいけないのが
「深夜にこっそりプレイすると怖さ倍増、そして笑いの落差でもっと味わい深い」
という点。
とくに1はゴシックホラー寄りの表現が強いので、ライト消してヘッドホンして遊ぶとあの不気味なダンジョンBGMにゾクゾクさせられます。
そしてたまに挟まれるギャグイベントでビクッと肩透かしを食らう…
「こんなに悲惨な場面なのに、何でこの人いきなりボケてるの?」
みたいな可笑しさが満載。
わたし個人としては、ホラーとギャグはちょうど辛い料理に甘さを加えるような妙な相乗効果を出すと思っています。
一瞬ビビらせてから吹き出してしまうと、心が軽くなって「もうちょっと続きやろう」となるわけです。
つまり、よく作り込まれた映画のようなRPGを一本体験する感覚でしょうか。
敵が禍々しい造形で出てきたと思ったら、その直後にふざけたアイテムやイベントがあるというメリハリがシャドウハーツの特殊な味付けになっています。
懐かしきゴシックRPGの珠玉の世界終わりに
いかがでしたか。
「シャドウハーツ1」は、実在の歴史(1910年代の中国・欧州情勢)を下地に、陰陽術や吸血鬼、魔術師や邪神をぶち込んだ摩訶不思議な世界を作り上げ、そこに“希望と喪失”という壮大な人間ドラマを持ち込んだ印象的なRPGです。
ホラー要素があるぶん好き嫌いは分かれますが、ここまでネタバレをご覧になった方なら、むしろ「そのダークな刺激をちょっと味わってみたい」と思っていただけるかもしれません。
上海が炎上し、ウルが消え失せる展開の衝撃、ウル復活のシーンでアリスが自分の命を差し出す切なさ、そして最終的には“人が防げない戦争”の現実が示されるシビアな余韻――全編にわたるドラマ性は、発売から年月が経った今でも十分心を揺さぶります。
もしプレイ環境が整うなら、ぜひ実際のゲームでこの物語を追体験するのも良いでしょう。
しかもエンディングが2種類あり、続編に公式採用されるのはバッドエンドという珍しい構成。
ハッピーエンドを見たいならちょっとした隠し要素も踏む必要がありますが、それでアリスが救われる感動もまた大きい。
一方「え、あんまりシビアなのは苦手…」と思って避けがちな人にこそ、この作品独自のコメディ要素との落差を体験してほしい気もします。
ラーメンにチョコレートが乗っているような味の奇妙な組み合わせがクセになる――それがシャドウハーツ1だといっても大げさではないでしょう。
もしあなたがダークファンタジーと史実の入り混じった世界観に興味を持ったなら、この作品はあなたの好奇心を大いに刺激し、長い旅へ誘ってくれるかもしれません。
それが、魔物との融合の恐怖か、コミカルな仲間たちとの珍道中か、あるいは最愛の人を失う喪失か――いずれにせよ、この“上海大崩壊から浮遊城ネアメートまで突き進む”ゴシックRPGは、あなたのゲーム体験を一味違ったものに変えてくれるはずです。
シャドウハーツ1のストーリーは決して軽やかではありません。
どちらかといえば重苦しく血なまぐさい描写も多い。
でもその中には、希望を捨てない人間の尊さや、絶望的な状況下のユーモア、そして愛する人を守りたいという強烈な意志が詰まっています。
この作品に触れれば、
「ああ、人生も悪くないかもしれない」
と逆に思える瞬間があるかもしれません。
魔物との契約や死神との取引と比べれば、普段の悩みはまだかわいいもの…
と、ちょっと心が軽くなることもあるのではないでしょうか。
以上、シャドウハーツ1のストーリー全容と結末(グッド&バッドエンド)の両方を徹底的にまとめました。
どうしても時間がない方やプレイできない方のための“完全ネタバレ解説”ですが、もし機会があれば、ぜひご自身でウルとアリスの運命を体験してみてください。
列車で始まり列車で終わる彼らの物語が、あなたの心にも深い余韻を残すはずです。
世界の崩壊を阻んだところで戦争は止まらない――けれど、その中でも一筋の希望が立ち上がる。
その一筋を描ききったのが、まさに「シャドウハーツ1」なのです。