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S.T.A.L.K.E.R.シリーズのストーリーを時系列順に結末までネタバレ

超・最終警告

この記事は、あなたが知っている(あるいは、知っていると思い込んでいる)『S.T.A.L.K.E.R.』の世界を、根っこからひっくり返すかもしれません。

ええ、文字通り。

シリーズ全作――あの懐かしの『Shadow of Chernobyl』から、記憶に新しい『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』まで――その骨の髄、物語の核心、隠し味のスパイス、そして禁断の結末に至るまで、時系列に沿って、それはもう遠慮なく、根掘り葉掘り、まるっと全部、ぶちまけます。

 

ですから、もしあなたが「自分の足でゾーンの秘密を暴くんだ!」という純粋な探求心をお持ちなら、お願いですから、今すぐブラウザをそっ閉じしてください。

後悔先に立たず、ですってよ。

 

…まだスクロールしてます? 覚悟はよろしいようで。

では、埃っぽいガスマスクを装着して、ガイガーカウンターが鳴り止まない心の準備を。

さあ、2025年4月、最新情報と深読み考察マシマシでお届けする、歪んだ現実(ゾーン)の最深部へのツアーに出発しましょう。

途中気分が悪くなっても、責任は負いかねますのであしからず。

 

灰色なのか鉛色なのか、とにかくご機嫌斜めな空の下、錆と放射能と、なんだかよく分からないけどヤバそうな気配が充満する大地――それが「ゾーン」。

ご存知、1986年のチェルノブイリ原発事故という、私たちの世界の痛ましい記憶の上に、人間のやらかしと、それを超えたナニカが上書きされた、とんでもない場所です。

なぜ、人はこの死地に向かうのか? キラキラ光るけど触るとヤケドじゃ済まない「アーティファクト」とは一体何なのか?

ゾーンの中心で囁かれていた「願望器」って、結局ただのデマだったの? それとも…? そして、昨年(2024年)ついに我々の前に姿を現した『S.T.A.L.K.E.R. 2』が問いかけた、「チョルノービリの心臓」の正体とは?

ええ、ええ、分かっていますとも。

最新作で多くの答えは示されました。

まるで連ドラ最終回のように。

でもね、人生がそうであるように、物語もまた、一つの答えが新たな問いを生むもの。

この記事では、ゾーン誕生の瞬間から、伝説のストーカーたちの汗と涙と土埃にまみれた戦い、そして最新作で明かされた(であろう)真実まで、シリーズ全体の壮大な叙事詩を、ただなぞるだけじゃなく、ちょっと斜め上からの深読み――そうね、言うなれば超論理的かつ超俯瞰的、なかなか思いつかない(かもしれない)アプローチで、考察という名のツッコミを入れながら、追体験していこうと思います。

公式設定という名の骨格に、コミュニティで囁かれる都市伝説という名の贅肉、そして明らかになった新事実という名の最新ファッションを纏わせ、ゾーンが辿った奇妙で物悲しい運命のフルコースを、とくとご賞味あれ。

さあ、深呼吸して。

ゾーンの空気を吸い込む覚悟で、読み進めてくださいまし。

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歪んだ理想と現実(リアル)の亀裂 (1986–2006年)創世のノイズ

すべての始まりは、教科書にも載っているあの出来事。

1986年4月26日、第一次チェルノブイリ原子力発電所事故

放射能が降り注ぎ、広大な土地が人の住めない場所となり、石棺と呼ばれる巨大なコンクリートの蓋が、とりあえずの厄災封じとなりました。

これが表の歴史。

でもね、どんな物事にも裏があるように、この悲劇の影では、もっとスケールが大きくて、ある意味もっとタチの悪い計画が、水面下で、いや、石棺の下で進んでいたのですわ。

時は1990年代。

大きな国が崩壊し、世の中がなんだかザワザワしていた頃。

7人の、それはもう優秀だけど、ちょっと(いや、かなり)危ない思想に取り憑かれた科学者たちが、こっそり集まりました。

彼らは歴史の教科書には載らないでしょうけど、後に「ザ・グループ (The Group)」なんて呼ばれるようになります。

彼らの野望ときたら、もう、神様ごっこもいいところ。

戦争、憎しみ、強欲…人間をダメにするこれらのネガティブ感情を、地球上からソフトウェアアップデートみたいに消去しちゃおう!と考えたのです。

そのための手段が、個人の意識を超えた、全人類の精神活動ネットワーク――彼らが「ノウアスフィア(叡智圏)」と呼んだ、まあ、インターネットの精神版みたいなもの?――に直接アクセスして、それを制御・書き換えちゃうスーパーAI、いや、スーパー集合意識体、「C-Consciousness(シー・コンシャスネス)」の創造でした。

自分の脳みそすら実験台にするなんて、マッドサイエンティストも真っ青な、倫理観ゼロ地点突破な計画ですね。

実験場所に選ばれたのが、また皮肉なことに、第一次事故で誰も近づかなくなったチェルノブイリの立入禁止区域。

広すぎて監視の目も届きにくいし、ソ連時代の巨大なアンテナ(有名な「ドゥーガ」レーダーとかがモデルね)が、彼らのヤバい実験には好都合だったんですって。

1989年頃から、彼らは石棺の奥深くに秘密基地を作り、せっせとC-Consciousnessを組み上げていきました。

そして、運命の2006年4月12日

C-Consciousness、起動。

ノウアスフィアへの本格ハッキング開始!…のはずが、大失敗。

人間の精神ってやつは、彼らが思っていたよりずっと複雑で、デリケートで、手に負えない代物だったんですのね。

干渉は暴走し、制御不能なエネルギーが逆流。

その結果、チェルノブイリ周辺の物理法則そのものがグニャリと歪み、私たちの知る現実とは似て非なる異常領域が、まるで悪夢のように現実世界に染み出してしまったのです。

これが、後に「ゾーン」と呼ばれる全ての元凶、第二次爆発

ゾーンの誕生

この瞬間、世界に「ゾーン (The Zone)」が産声を上げました。

でも、それは祝福されるべき赤子なんかじゃなく、C-Consciousnessという歪んだ親が生み落とした、厄介で危険な落とし子。

空間は不安定に波打ち、触れたものを分子レベルで分解したり、重力を無視して宙に浮かせたりする、目に見えないエネルギーの罠「アノーマリー(異常現象)」が、まるで地雷のようにあちこちに点在。

大地は放射能と未知のエネルギーで汚染され、そこにいた動植物は、悪夢に出てきそうな姿のミュータントへと変わり果てました。

足音もなく忍び寄り血を吸う怪物、群れで襲い来る異形の獣、そして人の心を操る恐ろしい存在…人間でさえ、その精神を蝕まれ、自我を失い徘徊するゾンビへと変えられてしまう始末。

人類の精神を救うはずだったC-Consciousnessの計画は、見事に大コケ。

彼らは自らが引き起こした大惨事を前に、目的を「世界の浄化」から「このヤバいゾーンの隠蔽と、これ以上広がらないようにする現状維持」へと、しれっと下方修正せざるを得なくなりました。

彼らはゾーンの中心部、石棺の奥深くに引きこもり、まるで引きこもりの神様みたいに、ゾーンを自分たちの実験場兼、外部からの侵入者を阻む巨大な迷宮として管理し始めたのです。

ストーカーたちの流入

でもね、どんなに高い壁を作っても、噂ってやつは隙間風のように漏れ伝わるもの。

「ゾーン」の存在は、軍や政府がいくら隠そうとしても、裏社会や物好きな人々の間で囁かれるようになりました。

「そこには、物理法則を無視した不思議な物質『アーティファクト』がゴロゴロしてるらしいぜ」

「いやいや、ゾーンの中心には、どんな願いも叶えてくれる『願望器』があるんだとよ」

金、名声、知識、危険なスリル…理由は人それぞれ。

様々な欲望に突き動かされた命知らずたちが、軍の監視の目を盗んでは、放射能と怪物と見えない罠が渦巻くこの禁断の土地へと、吸い寄せられるように足を踏み入れていきました。

彼らは、自らを、あるいは互いを「ストーカー (Stalker)」と呼び合います。

それは本来、密猟者とか不法侵入者を指す、あまりよろしくない言葉。

でも、いつしかそれは、危険を顧みず未知に挑む冒険者、孤独な探求者、冷酷な殺し屋、抜け目のない盗賊といった、ゾーンという坩堝(るつぼ)に集う、多種多様な人間の生き様そのものを指す、ある種の称号のようにもなっていったのです。

C-Consciousnessの防衛システム

ゾーンの奥で引きこもっているC-Consciousnessにとって、このストーカーたちは、自分たちの秘密基地に土足で上がり込んでくる害虫以外の何者でもありません。

彼らは、自分たちの存在とゾーンの秘密を守るため、そして招かれざる客を効率よく「お掃除」するため、それはもう悪意と工夫に満ちた、嫌がらせみたいな防衛システムを張り巡らせました。

代表的なのが、ゾーン中心部への道を塞ぐように設置された、強力な精神攻撃タワー「Psiエミッター」群。

特にヤバいのが、レッドフォレストの奥にある通称「ブレインスコーチャー (Brain Scorcher - 脳味噌焼き機)」。

名前からして悪趣味ですけど、効果もそのまんま。

これが出す特殊なPsi波を浴びると、あら不思議、自我も記憶もきれいさっぱり消え去って、ただ命令に従うだけか、うめき声をあげて徘徊するだけのゾンビに大変身。

多くのストーカーが、甘い儲け話に釣られて、あるいは道に迷って、この見えない壁にぶつかり、二度と元の自分には戻れませんでした。

合掌。

さらに、彼らはもっと手の込んだトラップも用意しました。

原発4号炉の石棺の中に、それはもう美しく輝く巨大なクリスタル――「モノリス (Monolith)」――を設置。

「これこそが伝説の願望器だ!」なんてデマを流して、欲深いストーカーたちをホイホイ誘き寄せたのです。

実際には、これに触れた者は、願いが最悪の形で叶う(金持ちになりたいと願えば、金貨の山に生き埋めにされるとか、そういうオチ)か、あるいは精神を完全にハックされて、後述するヤバいカルト集団の仲間入り。

まさに、触らぬ神に祟りなし、ならぬ、触ったら最後な邪神様ですね。

そして、彼らはゾーン内のストーカーの中から、洗脳しやすそうなタイプや腕っぷしの強いタイプを選んで、ブレインスコーチャーやモノリスの力でマインドコントロール。

モノリス様を崇拝し、その守護のためなら命も惜しまない、狂信的な武装カルト集団「モノリス教団」を作り上げました。

特徴的な白い戦闘服で、最新兵器を手に、ゾーンの中心部に入ろうとする者を片っ端から排除する、C-Consciousnessの忠実な番犬です。

彼らはまた、「モノリス=願望器」っていう嘘情報を広める広告塔の役割も担っていました。

迷惑な話です。

でも、C-Consciousnessのやり方で一番えげつないのが、捕まえたストーカーの中でも特に「使える」と判断した個体を、完全に記憶処理&再プログラムして、自分たちの手足として再利用することでした。

その証として、彼らの腕には「S.T.A.L.K.E.R.」という、まるで家畜の焼き印みたいな刺青が刻まれました。

これらの「S.T.A.L.K.E.R.」エージェントは、特定の人物の暗殺や情報収集、他の組織へのスパイ活動など、C-Consciousnessからの直接指令を受けて、ゾーン内を暗躍する影の実行部隊。

そう、このゲームのタイトルにもなっている「S.T.A.L.K.E.R.」という言葉には、ゾーンに生きる全ての人々を指す広い意味と、この哀れな操り人形と化したエージェントを指す、狭くて、そして物語の核心に関わる、重い意味が込められていたのです。

こうして、物理法則がねじ曲がり、異形の怪物が闊歩し、見えない支配者の悪意が渦巻く、他に類を見ない異常地帯「ゾーン」はその形を成しました。

それは人類の傲慢さが生んだ歪んだ鏡であり、極限状況で人間の本性が剥き出しになる、過酷な舞台。

そして、この禁断の地の最も深い闇に、果敢にも光を当てようとした一人の男の行動が、やがてゾーン全体の運命を揺るがす、壮大な物語の幕を開けることになるのです。

まるで、静かな水面に投げ込まれた、一石のように。

探求者たちの足音と迫る影 (2011年)最初の囁き

時は2011年。

ゾーンが生まれてから5年。

そこは無法地帯でありながら、奇妙な秩序と力関係が生まれていました。

まるで、うちの会社の派閥争いみたいに、ね。

代表的なのが二つの大きなストーカー派閥。

一つは、規律と秩序を重んじ、「ゾーンなんて危険なもんは徹底管理、いや、いっそ消滅させるべきだ!」と考える、元軍人中心のガチムチ集団「Duty(デューティ)」。

彼らはミュータント狩りに精を出し、アノーマリーのデータを集め、ゾーンを人類の脅威と見なしていました。

もう一つは、真逆の思想。

「ゾーンは自由だ!その神秘を探求し、うまく付き合っていくべきだ!」と主張する、アナーキスト気質の集団「Freedom(フリーダム)」。

彼らはゾーンを、人類への新たな可能性を秘めた場所と捉え、軍やDutyの管理強化には「うっせぇわ!」と反発。

この二大勢力は、ゾーンの資源や支配権、そして何より「ゾーンをどうすべきか」という根本的な思想の違いから、それはもう、あちこちでドンパチやり合っていました。

犬も食わないってやつですね。

もちろん、彼らだけじゃありません。

どこの派閥にも属さず、一匹狼として自分の腕と勘だけを頼りに生きるLoners(ローナー)

弱い者から奪い、他人を蹴落として成り上がることを是とする悪党集団Bandits(バンディット)

金さえ貰えれば、どんな汚い仕事も、危険な任務も請け負う、正体不明のプロフェッショナル集団Mercenaries(マーセナリー)

そして、危険を顧みず、純粋な知的好奇心からゾーンの異常現象を研究するEcologists(科学者)たち。

彼らが入り乱れ、協力したり、裏切ったり、利用したりしながら、今日の糧と明日への生存を賭けて生きている。

それが2011年のゾーンの日常でした。

外の世界では、ウクライナ軍が相変わらずゾーンの周りをぐるっと囲んで封鎖し、たまに偵察部隊を送ったりしていましたが、広大で、しかも常に変化し続けるゾーンの実態なんて、とても掴みきれてはいませんでした。

ストレロークとその仲間たち

そんな混沌とした世界に、ひときわ異彩を放つチームがいました。

彼らは他のストーカーたちのように、目先の金や派閥争いに明け暮れるのではなく、もっと大きな謎、ゾーンそのものの核心に迫ろうとしていたのです。

そのリーダーが、後にゾーンの歴史にその名を刻むことになる男、ストレローク (Strelok)

本名?誰も知りません。

「射手」という意味のコードネームだけが、彼のアイデンティティ。

彼は、ゾーンの中心にあるとされる「願望器」の伝説に、最初から胡散臭さを感じていました。

そして、その正体と、ゾーンが生まれた本当の理由を突き止めることに、異常なまでの情熱を傾けていたのです。

彼には、背中を預けられる、鉄壁の信頼で結ばれた二人の仲間がいました。

一人は、どんなガラクタからでも役立つ道具を作り出し、電子ロックもハッキングしちゃう天才技術屋、ファング (Fang)

もう一人は、影のように動き、どんな危険な場所にも潜入し、情報を持ち帰る偵察の達人、ゴースト (Ghost)

彼らストレローク一隊は、他の誰もが不可能だと思っていたことをやってのけます。

多くのストーカーを廃人にしてきた悪名高いブレインスコーチャーの精神攻撃を、ファングが開発した特殊なヘルメット(まだ試作品だったらしいけど)でなんとか防御し、ついにゾーンの心臓部、チェルノブイリ原発の石棺(サーカファガス)への潜入に成功したのです!

そこで彼らは、噂に聞いていた巨大なクリスタル、「モノリス」を目の当たりにします。

でも、彼らはただの脳筋じゃありませんでした。

事前に集めた情報や、ゾーンでの経験則から、「こんな都合のいい話があるわけない、これは罠だ」と見抜いていたのです。

モノリスを華麗にスルーして、さらに奥へと進んだ彼らが見つけたのは、重厚で、明らかに人間の技術とは思えない、固く閉ざされた謎の電子ロック扉

この扉の向こうにこそ、ゾーンの真の秘密が隠されている――ストレロークはそう直感しました。

しかし、その扉を開ける方法が分からない。

彼らは一旦、撤退を決意します。

扉を開けるための鍵、「デコーダー」を開発し、万全の準備を整えて、必ずここに戻ってくるために。

でもね、彼らの大胆な行動は、石棺の奥底で全てを見ていた(あるいは感じていた)ゾーンの支配者、C-Consciousnessにはお見通しでした。

「あらあら、予定外のお客さんが、核心に近づきすぎちゃったね。

これはちょっと、よろしくないわ」。

ストレローク一隊は、C-Consciousnessにとって最優先で排除すべき「バグ」であり、「脅威」と認識されました。

彼らは直接手を下すのを避けつつ(面倒くさかったのか、あるいは他に理由があったのか)、ゾーン内に「ストレローク一味に高額な賞金がかかったぞ!」なんて情報を流して、他のストーカーや傭兵たちに彼らを始末させようとします。

もちろん、裏ではモノリス教団やS.T.A.L.K.E.R.エージェントにも追跡・排除命令を出していたでしょうけど。

Clear Skyの決断

ちょうどその頃、ゾーンの南の端っこ、グレート・スワンプ(大湿地帯)っていうジメジメした場所で、これまでほとんど目立たなかった、ちょっと風変わりな組織が、ゾーン全体の運命に関わるかもしれない、大きな決断を下そうとしていました。

彼らの名前は「Clear Sky(クリアスカイ)」。

元々は、ゾーンで起こる不思議な現象や、奇妙な生態系を、純粋に科学的な興味から研究していた、科学者や元研究者、一部の元軍人さんたちで構成された、いわばゾーンの自然観察同好会みたいなグループでした。

他の派閥みたいに、縄張り争いをしたり、アーティファクトで一儲けしようなんて考えは、ほとんど持っていませんでした。

Clear Skyのリーダーであるレベデフ (Lebedev)という、インテリ風の男性は、近年、ゾーンで頻度と威力が増している、空が真っ赤に染まって、地面からヤバいエネルギーが吹き出す現象「エミッション (Emission)」に、強い危機感を覚えていました。

長年の観測データと、彼独自の(ちょっと突飛な)理論から、彼はこう結論付けます。

「このエミッションの異常な活性化は、ストレロークとかいう連中が、原発の中心っていう、ゾーンのデリケートな部分に触ったせいじゃないか? このままじゃ、ゾーン全体のバランスが崩れて、とんでもない大災害が起こるぞ!」と。

レベデフは、ゾーンの(彼らが信じる)微妙な生態系のバランスを守るため、そして更なる大惨事を未然に防ぐという、ある意味崇高な目的のために、ストレロークたちの行動を阻止することを決意します。

正義感なのか、それとも研究対象を荒らされたくないというエゴなのか…まあ、その辺は置いときましょう。

ただ、Clear Skyは戦闘集団じゃありません。

ストレロークみたいな伝説クラスのストーカー相手に、まともにやり合える戦力はなかったのです。

そこでレベデフは、ある一人の傭兵の噂に目をつけます。

その名はスカー (Scar)

「傷跡」なんて物騒な名前ですけど、彼には本当に特異な事情がありました。

彼は最近、強力なエミッションに巻き込まれて九死に一生を得たのですが、その影響で神経系がズタボロに。

エミッションが近づくと頭痛がしたり、幻覚を見たりするようになってしまった代わりに、Psi波やエミッションに対する異常な耐性を身につけていたのです。

ただし、それは諸刃の剣。

エミッションを受けるたびに、彼の神経はさらに崩壊し、確実に死に近づいていくという、まさに呪われた体質でした。

レベデフはこのスカーの能力(というか体質)こそが、ストレローク追跡の鍵になると考えます。

彼は瀕死の状態で見つかったスカーを保護し、治療を施しつつ、こう囁きます。

「君を蝕むこの呪いは、ゾーンの不安定さが原因だ。そして、その不安定さを引き起こしているのがストレロークなのだ。彼を止めれば、ゾーンは安定し、君の命も救われるかもしれない…」

半ば脅し、半ば希望をちらつかせ、レベデフはスカーをClear Skyの尖兵として引き入れることに成功します。

そして、まるでタイミングを合わせたかのように、原発から撤退しようとするストレローク一隊を狙って、C-Consciousnessが意図的に、あるいはゾーン自身の反応として、超ド級のエミッションが引き起こされます。

後に「第二の大災厄」とも呼ばれるこの現象は、ゾーン全体を激しく揺さぶり、地形すら変えてしまうほどでした。

そして、このエミッションの強烈なエネルギー波は、遠く離れたClear Skyの拠点にいたスカーをも直撃。

彼の神経崩壊は、もはや待ったなしの状態に。

スカーは、自分の残り少ない命と、ゾーンの未来(とレベデフに吹き込まれた大義)を賭けて、Clear Skyの仲間たちと共に、まだ見ぬ強敵、ストレロークを追う、絶望的で悲劇的な追跡行を開始することになるのです。

これが、切なくも激しい物語、『S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky』へと繋がる、運命の序章でした。

追跡と喪失、エミッションの慟哭 (2011年秋)交差する運命

さあ、物語は傭兵スカーの視点へ。

プレイヤーであるあなたは、頭の中で時限爆弾のタイマーがカチカチ鳴っているような、そんな切迫感を抱えながら、ゾーンを駆け巡ることになります。

目的はただ一つ、ストレロークを見つけ出し、その行動を止めること。

それがゾーンを救い、ひいては自分自身の命を繋ぐ唯一の道だと信じて(あるいは信じ込まされて)。

Clear Sky派閥のリーダー、レベデフからの指示と支援を受けながら、あなたはゾーン南部の陰鬱な湿地帯から旅を始めます。

道中、他のストーカー派閥――Dutyの堅物ども、Freedomの楽天家たち、Banditのならず者ども――と出会い、時には彼らの依頼をこなして情報を得たり、時には彼らと銃弾を交えたりしながら、少しずつストレローク一隊の足取りを掴んでいきます。

あなたの特異な体質は、Psi波が飛び交う危険地帯や、突然発生するエミッションを生き延びる助けとなりますが、同時に、その異常さがあなたの肉体を内側から蝕み、常に死の影をちらつかせるのです。

まるで、業(カルマ)を背負って歩いているみたいに。

ストレローク一隊の悲劇

一方、追われるストレロークたちも、ただ逃げ回っていたわけではありません。

彼らの最大の目標は、原発で見つけたあの謎の扉を開けること。

そのためには、特殊な電子キー、「デコーダー」が必要でした。

技術担当のファングは、限られた資材と時間の中で、その天才的な頭脳をフル回転させ、ついに二つのデコーダーを完成させるという離れ業をやってのけます。

一つはリーダーであるストレロークが持ち、もう一つはバックアップとして、彼らがゾーンの奥深くで唯一信頼できる協力者、通称「博士 (Doctor)」に預けることにしました。

万が一のための保険、ですね。

しかし、運命の女神は、彼らに微笑んではくれませんでした。

ファングが博士にデコーダーを無事届け、任務完了の安堵も束の間、レッドフォレストと呼ばれる、木の根が不気味に絡み合い、ミュータントがうろつく危険な森を移動中に、彼は何者かの襲撃を受け、帰らぬ人となってしまうのです。

…そう、もうお分かりでしょう。

この時、ファングの命を奪ったのは、彼をストレロークの手がかりを持つ重要人物と(誤って)判断し、追跡していたスカー、あなた自身だったのです。

もちろん、スカーはその相手がファングだなんて知る由もありませんでしたが、結果は変わらない。

この一件で、ストレロークは最も信頼する仲間の一人と、デコーダー開発の技術的な要を同時に失うという、計り知れない打撃を受けました。

襲撃の状況を聞いたゴーストは、自分たちが何者かによって執拗に、そして確実に狙われていることを悟り、ストレロークに最大限の警戒を促します。

片腕を失い、すぐそこまで追っ手が迫っている。

ストレロークは絶望的な状況の中、非情な決断を下さざるを得ませんでした。

もはや、ゴーストと合流して体勢を立て直している暇はない。

彼は、ファングが命と引き換えに完成させたデコーダーを握りしめ、たった一人で、二度目のチェルノブイリ原発、あの忌まわしき石棺(サーカファガス)への突入を敢行することを決意します。

仲間の犠牲を無駄にしないために。

そして、何よりも、ゾーンの真実をこの手で掴むために。

彼の孤独な戦いが、再び始まろうとしていました。

最終対決とスカーの運命

時を同じくして、スカーと、彼を支援するレベデフ率いるClear Skyの戦闘部隊もまた、数々の困難(と犠牲)を乗り越え、ついに最終目的地、チェルノブイリ原発の敷地内へと到達していました。

そこは、もはや人間の住む場所ではありませんでした。

モノリス教団の狂信的な兵士たちが、地の利を活かして鉄壁の守りを固め、最新兵器の銃弾が雨のように降り注ぐ、文字通りの地獄。

Clear Sky部隊は、勇敢に、しかし無謀にも突撃を敢行し、多大な血を流しながらも、なんとかスカーを原発内部へと送り込むための道筋を切り開きます。

そして、スカーはついに、石棺へと続く通路を進む、ストレロークの後ろ姿を捉えました。

レベデフからの通信が、彼の耳元で叫びます。

「今だ、スカー!奴を止めろ!奴のPsi防御ヘルメットを破壊するんだ!それが我々の、そしてゾーンの唯一の希望だ!」

スカーは引き金を絞り、放たれた弾丸は吸い込まれるように、ストレロークが被っていた特殊なヘルメットに命中。

火花と共に、その防御機能は破壊されました。

任務完了…かに思えました。

しかし、それは、終わりではなく、破滅の始まりでした。

ストレロークのPsiプロテクションが失われた、まさにその瞬間。

チェルノブイリ原発を中心に、まるでゾーンそのものが断末魔の叫びを上げたかのような、想像を絶する規模の、超々弩級のエミッションが発生したのです。

それは、もはや自然現象ではありませんでした。

空間そのものが捻じ曲がり、現実が崩壊していくような、圧倒的なエネルギーの奔流。

Psi防御を失ったストレロークは、このエネルギーの直撃を受け、なすすべもなく意識を失い、その場に崩れ落ちました。

そして、その引き金を引いてしまったスカー自身もまた、この終末的なエミッションの濁流から逃れることはできませんでした。

彼の体は、皮肉にも彼をここまで導いたエミッションの力によって、完全に飲み込まれてしまいます。

その後の彼の消息は、公式には不明。

一般的には、この時に死亡した、あるいは人間としての存在を維持できなくなったと考えられています。

彼が背負っていた呪いは、結局、彼自身を滅ぼすことになったのです。

彼の物語は、多くの謎と、やりきれない後味を残して、ここで幕を閉じます。

(でもね、彼の特異な存在は、後々まで「実は生きてるんじゃないか?」とか「ゾーンの一部になったのでは?」なんて、ファンの間で色々な憶測を呼ぶことになるんです。ロマンがあると言えば、聞こえはいいかしらね。)

この最後にして最大のエミッションは、Clear Sky派閥にとっても、文字通り壊滅的な打撃となりました。

原発に突入した勇敢な(あるいは無謀な)隊員たちは、そのほとんどがエミッションの犠牲となり、組織は事実上、崩壊。

リーダーであったレベデフの安否もまた、不明となりました。

しかし、彼はその最期の間際にか、あるいはそれ以前に、ゾーンに関するさらなる秘密――特に、プリピャチ近郊に隠された、極秘の地下研究所「X8中央研究所」の存在を示唆する重要なメモ――を残していました。

このメモは、後に別の人物の手に渡り、ゾーンの謎を解き明かす上で、重要なピースの一つとなっていきます。

人の想いというのは、こういう形で繋がっていくものなのかもしれませんね。

ストレロークの皮肉な運命

さて、一方、エミッションで意識を失い、完全に無力化されたストレローク。

彼は、なんとも皮肉な運命を辿ることになります。

エミッションが収まった後、現場を調査していたC-Consciousnessのエージェント(おそらくモノリス教団か、S.T.A.L.K.E.R.エージェント)によって発見され、回収されたのです。

でも、ここが運命の面白いところ。

なんと、C-Consciousnessは、自分たちが回収したこのボロボロの男こそが、あれほど血眼になって排除しようとしていたストレローク本人だとは、最後まで気づかなかったのです!

彼らは、この男が超々巨大エミッションを(結果的に)生き延びたという事実と、その肉体に秘められた(かもしれない)ポテンシャルにだけ注目しました。

そして、彼を「使える素材」と判断し、他の捕虜ストーカーと同じように、記憶を完全に消去し、徹底的な洗脳を施すことにしたのです。

彼の腕には、隷属の証である「S.T.A.L.K.E.R.」の焼き印(刺青)が押され、空っぽになった彼の頭脳には、たった一つの、しかし致命的に矛盾した命令がインプットされました。

それは――「Strelokを殺せ」。

そう、彼は、自分自身を殺すためにプログラムされた、名もなきエージェントへと成り果ててしまったのです。

伝説のストーカー、ストレロークの物語は、ここで完全に終わったかに見えました。

ゾーンの最も暗い闇の中へと、彼の存在は溶けて消えたかのように。

…しかし、運命の脚本家は、まだ彼にスポットライトを当てるつもりだったようです。

予想もしないアクシデントが、彼を再び、ゾーンという名の過酷な舞台へと引きずり出すことになるのですから。

人生、何が起こるか分かりませんわね、本当に。

記憶喪失と真実への回帰 (2012年)砕けた自己(ワレ)を探して

年が明け、2012年。

ゾーンは相変わらず、危険と謎と、一攫千金を夢見る男たち(たまに女性もいるけど)でごった返していました。

ゾーン中心部への道は、ブレインスコーチャーをはじめとするPsiエミッター群によって、依然として固く閉ざされていました(『Clear Sky』での出来事は、C-Consciousnessにとっては想定外のトラブル程度で、防衛システムは維持されていたようです)。

外の世界では、ウクライナ軍がゾーンへの本格介入作戦「フェアウェイ作戦」の機会を虎視眈々と狙っていましたが、この見えない精神攻撃バリアが最大のネック。

一方、ゾーンの支配者であるC-Consciousnessも、軍の動きを警戒し、防衛網の強化と、手駒となるエージェントの補充に余念がありませんでした。

その一環として、彼らは新たに「製造」した「S.T.A.L.K.E.R.」エージェントたちを、任務のためにゾーンの境界付近へと送り出そうとしていました。

その薄汚れた輸送トラックの中に、かつてストレロークと呼ばれ、今は「自分自身を殺せ」という奇妙な使命だけを胸に(というか脳に)刻まれた、記憶喪失の男の姿がありました。

彼は、任務に失敗したか、洗脳に耐えられず壊れてしまった他のストーカーたちの亡骸と一緒に、まるでゴミのように、悪名高い「死のトラック (Death Truck)」に放り込まれていたのです。

ぞんざいな扱いですこと。

死のトラックと運命の事故

しかし、この「死体運搬」任務は、思わぬ形で終わりを迎えます。

ゾーン特有の、空が裂けるような激しい雷雨の中、トラックは不運にも(あるいは幸運にも?)落雷の直撃を受け、コントロールを失って大破、炎上。

積み荷となっていたエージェントや死体は、衝撃と業火の中でほとんどが消し炭となりました。

…が、またしても奇跡が! 私たちの主人公、かつてのストレロークは、この大惨事からも、しぶとく生き延びたのです。

まあ、瀕死の重傷を負って、完全に意識を失ってはいましたけどね。

彼は、事故現場近くのゾーン最南端、新米ストーカーが最初に足を踏み入れるエリアであるコルドン (Cordon) で、偶然通りかかった親切な(あるいは物好きな)ストーカーによって発見されました。

助けられたものの、彼は自分が誰なのか、なぜこんなところにいるのか、右も左も分かりません。

完全な記憶喪失。

彼を発見したストーカーは、この謎めいた男を、コルドンの顔役であり、情報と物資を扱う抜け目のない闇ブローカー、シドロヴィッチ (Sidorovich) の元へと運び込みます。

地下壕に店を構えるシドロヴィッチは、見るからに怪しいこの男に興味を持ちます。

所持品を漁ると、壊れたPDA(携帯情報端末)が。

なんとか起動してみると、表示されたのはたった一つのタスク――「Strelokを殺せ」

男に聞いても「ストレローク? 誰それ、美味しいの?」状態。

シドロヴィッチは、男の腕に刻まれた「S.T.A.L.K.E.R.」の刺青に気づき、彼に仮の名前を与えます。

「マークド・ワン (Marked One)」――印付きの男。

そして、いつもの調子で取引を持ちかけます。

「おい、そこの印付き。お前の命は俺が助けてやったようなもんだ。その恩を返すために、ちぃとばかし俺の仕事を手伝ってもらおうか。ちゃんと働きゃ、お前さんが探してるらしい『Strelok』とかいう奴の情報も、そのうち見つかるかもしれんぞ?」

こうして、プレイヤーであるあなたは、記憶を失った主人公「マークド・ワン」として、自分の正体も、追うべきターゲットの正体も知らぬまま、ただ生きるために、そして失われた自分自身を取り戻すために、奇妙で、危険で、そしてどこか物悲しい探索の旅へと足を踏み出すことになるのです。

シリーズの原点にして最高傑作と名高い、『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』の、長く険しい物語が、ここから始まるのです。

マークド・ワンの旅

マークド・ワンの旅は、コルドンの寒々しい風景から始まり、ゴミ捨て場(Garbage)での派閥間の小競り合いに巻き込まれ、ダークバレー(Dark Valley)の地下に隠された秘密を探り、アグロプロム研究所(Agroprom Research Institute)で軍の機密文書を盗み出し、ストーカーたちの憩いの場であるバー(Bar "100 Rads")で情報を交換し、ヤンタル湖(Yantar)で脳を焼かれそうなPsi波に耐えながら科学者を手伝い、レッドフォレスト(Red Forest)で悪名高いブレインスコーチャーの存在を実感し、軍倉庫(Army Warehouses)で自由を愛するFreedom派と出会い…と、ゾーンの危険地帯を次々と渡り歩いていきます。

彼は、シドロヴィッチやバーテンダー、科学者たちから依頼される様々な汚れ仕事――アーティファクト探し、ミュータント退治、行方不明者の捜索、敵対者の暗殺など――をこなしていくうちに、少しずつ「ストレローク」という人物に関する噂を耳にするようになります。

曰く、彼は超一流のストーカーで、仲間と一緒にゾーンの中心を目指していた。

曰く、彼は多くの敵を作っていて、その首には高額な懸賞金がかかっている。

曰く、彼はゾーンの重大な秘密を知ってしまった…。

しかし、その人物像は依然として掴めず、なぜ自分が彼を殺さなければならないのか、その理由は全く見えてきません。

まるで、自分自身の影を追いかけているような、奇妙な感覚に囚われながら。

物語が大きく動くのは、ヤンタル湖にある、放棄された巨大な地下研究所「X16」での出来事です。

ここは、強力なPsiエネルギーを放出する実験施設で、内部は精神崩壊したゾンビ・ストーカーがうようよいる、まさに地獄絵図。

科学者たちの依頼で、マークド・ワンはこの危険極まりない場所の深部へと潜入し、Psiエミッション装置の停止に挑みます。

ゾンビの群れをかき分け、複雑な施設を進んだ先で、彼は一体のストーカーの亡骸を発見します。

その男が持っていたPDAには、再生すると胸が締め付けられるような、悲痛な音声ログが残されていました。

それは、かつてストレロークと共にゾーンの核心を目指した彼の仲間、ゴースト (Ghost) の、最期のメッセージだったのです。

ゴーストは、Psi波に蝕まれ、意識が朦朧とする中で、こう言い遺していました。

「もし…誰か、ストレロークを探しているなら…『ガイド』に会え…奴なら、道を知っているはずだ…」。

真実への帰還

ゴーストの遺言と、他の情報源からの助言を頼りに、マークド・ワンは、神出鬼没で、ゾーンの生き字引とも呼ばれる伝説の情報屋「ガイド (Guide)」との接触に成功します。

ガイドは、マークド・ワンの尋常でない雰囲気と、彼が持ってきたゴーストのPDAから、彼がただのストーカーではないこと、そしてストレロークという存在と深く結びついていることを瞬時に見抜きます。

最初は値踏みするような態度を見せながらも、ガイドは最終的にマークド・ワンを認め、彼をストレローク一派の最後の協力者が隠れ住む場所へと案内します。

そこは、アグロプロム研究所の広大な地下迷宮、そのさらに奥深く、軍のパトロールもミュータントさえも寄り付かない、忘れられた一角に存在する、小さな隠れ家でした。

そして、そこで彼を待っていたのは、白衣を纏い、穏やかながらも鋭い眼光を持つ老人――「博士 (Doctor)」でした。

博士との対面。

それは、マークド・ワンにとって、まさに運命の瞬間でした。

博士は、マークド・ワンの顔を見るなり、息を飲み、そして確信に満ちた声で言いました。

「ストレローク…! まさか、生きていたとは…!」

博士は、堰を切ったように語り始めます。

かつて、彼らが若く、理想に燃えていた頃のこと。

ファングやゴーストという、かけがえのない仲間たちとの日々。

ゾーンの謎に挑み、原発の中心で見た、あの扉のこと。

そして、彼らがどのようにして別れ、博士が一人、ここで仲間たちの帰りを待ち続けていたのか…。

博士の言葉、隠れ家に飾られた色褪せた写真、そこに残された仲間たちの装備…それら全てが、マークド・ワンの頭の中に固く閉ざされていた記憶の扉を、激しくノックします。

そして、ついに、その扉は開かれました。

洪水のように、失われた記憶が蘇ります。

そうだ、俺はストレロークだ。

ファング、ゴースト…仲間たちがいた。

俺たちは、ゾーンの真実を求めていたんだ。

原発で、あの扉を…!

そして、思い出す。

あの忌まわしい刺青、死のトラック、そしてPDAに残された、ただ一つの命令。

「Strelokを殺せ」。

あれは、俺自身を殺すための、C-Consciousnessが仕掛けた、なんとも悪趣味で残酷な罠だったのだ、と。

砕け散っていた自己(ワレ)の破片が、再び一つに繋がった瞬間。

彼はもはや、記憶のないマークド・ワンではありませんでした。

彼は、怒りと悲しみ、そして亡き仲間たちの意志を継ぐという、鋼のような決意を胸に宿した、ストレロークとして再生したのです。

彼の目的は、今や明確でした。

再び、あのチェルノブイリ原発へ。

かつて開けることのできなかったあの扉を開け、全ての元凶であり、自分たちの運命を弄んだC-Consciousnessと、決着をつける。

そのためには、ファングが予備として博士に託し、その後、追っ手から隠すためにプリピャチ市街の廃ホテルの一室に隠されたという、もう一つのデコーダーが必要でした。

最後の決断

ストレロークは、ガイドや博士、そして道中で築き上げた他のストーカーたちとの絆を頼りに、ゾーンで最も危険な場所、ゴーストタウンと化したプリピャチ市街へと潜入します。

そこは、モノリス教団の兵士たちが闊歩し、強力なミュータントが巣食う、文字通りの死の街。

数々の死線を乗り越え、目的のホテルに隠されていたデコーダーを回収したストレロークは、ついに、彼の長い旅の終着点、チェルノブイリ原発の石棺(サーカファガス)へと、三度(みたび)、足を踏み入れるのです。

内部は、モノリス教団の最後の砦。

狂信的な兵士たちが、神(と彼らが信じるもの)を守るため、決死の覚悟でストレロークを待ち受けます。

かつて仲間と共に駆け抜けた道を、今度は一人で、しかし仲間たちの想いを背負って、彼は進みます。

銃弾が飛び交い、アノーマリーが牙を剥き、ミュータントが襲い来る、激しい戦闘の果てに、彼はついに、あの偽りの願望器「モノリス」と、その奥に鎮座する、固く閉ざされた電子ロック扉の前へとたどり着きました。

震える手でデコーダーをかざすと、重々しい機械音と共に、ゾーンの最も深い秘密を守ってきた扉が、ゆっくりと、その内部を露わにしました。

扉の先にあったのは、キラキラ輝く魔法のクリスタルなんかじゃありませんでした。

そこにあったのは、無数の太いケーブルと冷却パイプに繋がれた、巨大な機械装置――ジェネレーター群。

これがあの巨大なモノリスの正体、ホログラムを維持し、侵入者の精神に干渉するための、ただの機械だったのです。

「願望器」なんてものは、やはり、存在しなかった。

ストレロークは、怒りと虚しさを込めて、ジェネレーターを一つ、また一つと破壊していきます。

そして、最後のジェネレーターが破壊された瞬間、彼の周りの空間がぐにゃりと歪み、彼は現実とはかけ離れた、青白い光が満たす奇妙な異空間へと引きずり込まれました。

そこで彼が見たものは…まるでSF映画のワンシーン。

液体で満たされた複数のガラスカプセルの中に、プカプカと浮かぶ、7つの人間の脳。

あるいは、かつて人間だったものの、意識の集合体。

これこそが、ゾーンという悪夢を生み出し、操り、数えきれないほどのストーカーたちの人生を狂わせてきた元凶、C-Consciousnessの、醜悪な本体でした。

彼らは、テレパシーのようなもので、ストレロークの意識に直接語りかけてきます。

そして、まるで言い訳をするかのように、あるいは自分たちの行いを正当化するかのように、ゾーンに関する全ての「真実」を語り始めました。

  • 自分たちの正体: 人類から戦争や憎しみをなくしたい、という崇高な(でも、やり方がマズかった)目的のために、自分たちの脳を繋ぎ合わせて作った、集合意識体だと。
  • ゾーンができたワケ: その目的のために、全人類の意識ネットワーク「ノウアスフィア」にアクセスしようとしたら、実験が大失敗して、予期せぬ副作用でできちゃった、と。1986年の事故とは関係ない、チェルノブイリはただ場所が良かっただけ、と。
  • これまでやってきたこと: 実験失敗後は、このヤバいゾーンの存在を隠して、これ以上広がらないように管理してきたんだ、と。モノリスやブレインスコーチャーは、邪魔者を排除したり、手駒を作るための防衛システムで、まあ、そのせいで多くのストーカーが犠牲になったけど、仕方なかったんだ、と。S.T.A.L.K.E.R.エージェント? あれは便利な道具だったね、と。
  • ストレローク、お前について: 君は我々の計算外、想定外の存在(イレギュラー)だ。何度も我々の邪魔をして、ここまでたどり着くなんて、正直ムカつくけど、ある意味すごいね、と。
  • ゾーンの今とこれから: 実はゾーンはまだ不安定で、我々のコントロールを超えてじわじわ広がってるんだ。我々も頑張ってるけど、もう限界が近い。このままじゃ、マジでヤバいことになるかもしれない、と。

そして、C-Consciousnessは、ストレロークに、まるで最後の切り札を切るかのように、究極の選択を迫ります。

「どうだい、ストレローク。

我々の仲間にならないか? 君のその規格外の力があれば、我々と一緒になってノウアスフィアを安定させ、ゾーンの拡大を止められるかもしれない。

これは、人類全体を救うための、名誉ある自己犠牲だよ。

もし、この提案を断るというなら…まあ、ゾーンが、そして世界がどうなるか、我々にも保証はできないけどね」。

ふてぶてしい態度ですこと。

さあ、ここでプレイヤーは、ストレロークとして、物語の、そしてゾーンの未来を左右するかもしれない、最後の決断を下さなければなりません。

この選択によって、エンディングは大きく変わります。

  • 選択肢1:C-Consciousnessと合体しちゃう(非正史エンド): ストレロークは、「これ以上犠牲を出すくらいなら…」と、人類のために(あるいは諦めて)C-Consciousnessへの参加を受け入れます。彼の意識はカプセルに吸い込まれ、巨大な集合意識の一部となってしまいます。個としてのストレロークは消滅。ゾーンの管理は続くかもしれませんが、根本的な解決にはなっていない、なんとも後味の悪い結末です。
  • 選択肢2:目の前の脳みそを撃っちゃう(これも非正史エンド): ストレロークは「問答無用!」とばかりに、目の前のカプセル(C-Consciousness本体)を銃で破壊しようとします。でも、それは彼らの思う壺。カプセルが壊れた瞬間に発生するエネルギー暴走に巻き込まれて、ストレロークもろとも木っ端微塵。あるいは、別の悲劇が待っている。結局、これもバッドエンド。
  • 選択肢3:「ふざけんな!」と協力を拒否する(正史エンド): ストレロークは、彼らの自己満足な理想と、これまで重ねてきた非道な行いを糾弾します。「お前らみたいな奴らの、歪んだ計画に手を貸すと思うか!」。彼は、きっぱりと、そして力強く協力を拒絶します。その態度に逆上したのか、あるいは、もはやストレロークという「バグ」を自分たちのシステムから切り離したかったのか、C-Consciousnessは最後の力を振り絞り、ストレロークを異空間から現実世界、原発の敷地の外へと強制的にテレポートさせます。飛ばされた先で待っていたのは、多数の敵(モノリス兵か軍隊かは状況次第)。
    満身創痍のストレロークでしたが、彼は死力を尽くしてその包囲網を突破します。
    そして、崩れた建物の瓦礫に倒れ込み、曇り空を見上げながら、彼は、静かに、しかし、確かな生命の息吹を感じさせる一言を、吐き出すのでした。
    「I am alive...」(俺は、生きている…)

この正史とされるエンディング。

重要なのは、ストレロークはC-Consciousness本体を完全に破壊したわけではない、ということです。

しかし、彼の行動は、このゾーンの支配者に致命的なダメージを与え、その組織的な活動能力を著しく低下させたか、あるいは完全に麻痺させたと考えられます。

でも、ゾーンそのものは消えませんでした。

生みの親であるC-Consciousnessがいなくなった(あるいは機能停止した)後も、ゾーンは、まるで自律神経で動く巨大な生命体のように、独自の法則とエネルギーで存在し続け、変化し続けることになったのです。

ストレロークは、自由を取り戻し、そしてゾーンに関する、あまりにも重い真実を知ってしまいました。

彼の個人的な戦いは、ここで一つの区切りを迎えました。

しかし、それは終わりではありませんでした。

ゾーンという巨大な存在と、これからどう向き合っていくのか。

彼の物語は、より大きなスケールで、再び動き出すことになるのです。

彼の生還は、ゾーンにとって、そして彼自身にとって、新たな時代の、静かな、しかし確かな幕開けを告げていたのですから。

プリピャチからの呼び声と新たな関与 (2012年秋)開かれた道、公的な迷宮

ストレロークがチェルノブイリ原発の最深部で大立ち回りを演じ、結果的にゾーン中心部への道を塞いでいた主要なPsiエミッター、特にあの悪名高いブレインスコーチャーが機能停止した(あるいは、少なくとも大幅に弱まった)という情報は、まるで吉報のように、ゾーンの外の世界、特にウクライナ政府と軍の諜報部門に駆け巡りました。

長年、あの忌々しいPsi波の壁のせいで、ゾーンの中心部は文字通り「見えざる領域」でしたからね。

その最大の障害が取り払われた(かもしれない)! これは、ゾーン内部の実態を把握し、あわよくば、そこに眠るとされる莫大な資源(特にアーティファクトね)を国家管理下に置く、またとないチャンス!…と、お偉いさんたちは考えたわけです。

まあ、皮算用ってやつですね。

フェアウェイ作戦の失敗

こうして、以前から計画だけはあったものの、実行に移せなかった大規模ヘリコプター部隊による電撃的な偵察・強襲作戦、その名も「フェアウェイ作戦 (Operation Fairway)」の実施が、急遽、ゴーサインとなりました。

軍は、これまでに集めた(と彼らが信じていた)ゾーン内部のデータを総動員し、アノーマリー(異常現象)がありそうな場所を避けるように、安全(のはず)な飛行ルートを緻密に(のつもりで)設定しました。

そして、最新鋭の観測機器を満載し、重武装した兵士たちを詰め込んだピカピカの大型輸送ヘリコプター5機(コールサインは「スティングレー」1号機から5号機)が、意気揚々と、ゾーンの中心部、特に廃墟の街プリピャチを目指して、飛び立っていきました。

まるで、遠足にでも行くみたいに。

しかし、現実は甘くありませんでした。

というか、ゾーンはそんな生易しい場所じゃなかった。

軍が血眼になって作ったアノーマリーマップなんて、刻一刻と姿を変えるゾーンの気まぐれの前では、昨日の新聞紙ほどの役にも立ちませんでした。

最新鋭のはずのスティングレー各機は、飛行ルート上に突如として現れた、地図にはない空間異常アノーマリーに捕まって操縦不能になったり、空飛ぶミュータント(そんなのまでいるんですのよ、ゾーンには!)に襲われたりして、次々と無線連絡を絶ち、コントロールを失って墜落。

結局、投入された5機のヘリは、その全てがゾーン北部のあちこちに鉄クズとなって散らばるという、目も当てられない結果に。

フェアウェイ作戦は、人的にも物的にも大損害を出しただけでなく、軍のメンツも丸潰れにする、完全無欠の大失敗に終わったのです。

計画性のなさ、ここに極まれり、ですね。

デグチャレフ少佐の任務

一体全体、何が起こったのか? なぜ最新鋭のヘリが、こうもあっさり全滅した? 墜落したヘリの乗員に、生き残りはいないのか?

軍のお偉いさんたちは、この信じがたい(でも現実に起こった)事態の真相を究明し、少しでも情報を回収するため、そして失敗の責任を誰かに押し付けるため(?)、一人の男に白羽の矢を立てます。

彼の名はアレクサンドル・デグチャレフ

階級は少佐、所属はウクライナ国家安全保障局(SBU)。

ここまではエリート軍人って感じですけど、彼にはとんでもない裏の顔がありました。

なんと、彼はかつてゾーンで活動していた、経験豊富な元ストーカーだったのです!

その異色の経歴が持つ、ゾーンに関する深い知識、卓越したサバイバル能力、そして何事にも動じない冷静沈着な判断力。

それらが、この絶望的な状況を打開する鍵になると期待されたのです。

デグチャレフ少佐は、SBUエージェントとしての身分を隠し、ただのフリーストーカーを装って、単身でゾーン北部(ザトン、ヤノフ、そしてプリピャチ)に潜入。

墜落したスティングレー各機のブラックボックス(フライトレコーダーね)を回収し、作戦失敗の真の原因を突き止めるという、超極秘かつ超危険な任務を与えられました。

これが、シリーズ三部作のフィナーレを飾る、渋くて味わい深い物語、『S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat』の静かな始まりです。

プレイヤーであるあなたは、デグチャレフ少佐として、孤独な潜入捜査官の役を演じることになります。

最初の活動拠点は、ザトン地区と呼ばれる、沼地や廃工場が広がるエリアにある、巨大な廃船を利用したストーカーたちの数少ない安全地帯「スカドフスク」。

まるで、水上スラムみたいな雰囲気ですけど、ここが命綱。

あなたはここで情報を集め、他のストーカーたちからの様々な依頼(ミュータント退治から、酔っ払いの介抱まで!)をこなすことで、彼らの信頼を得ていきます。

そうやって得た情報や、自らの足で稼いだ情報を元に、墜落したヘリ(スティングレー2号機、5号機、3号機)の場所を特定し、現場へと向かうのです。

墜落現場は、案の定、危険なアノーマリーが渦巻き、獰猛なミュータントがうろつく、死と隣り合わせの場所ばかり。

デグチャレフは、元ストーカーとしての経験と勘、そしてSBUで培ったであろう戦闘スキルをフル活用して、これらの困難を乗り越え、ブラックボックスや生存者の手がかりを探します。

この調査の過程で、あなたは多くの忘れられないキャラクターたちと出会うことになります。

全身重装備で、口は悪いけど根は悪くない元Dutyのズールー。

ゾーンの異常現象に子供のように目を輝かせる、ちょっと変わり者の船頭ノア。

スカドフスクの顔役で、情報とウォッカを握るビャード。

ヤノフ駅で出会うことになる、真面目な科学者チームや、対立しながらも奇妙な共存関係にあるDutyとFreedomのリーダーたち…彼らとの関わり方が、あなたの調査の行方、そして彼ら自身の運命をも左右していくのです。

人生は選択の連続、ですね。

X8中央研究所の秘密

ザトン地区での調査を一段落させたデグチャレフは、次なるエリア、ヤノフ地区へと歩を進めます。

ここには、本来なら敵同士のはずのDutyとFreedomが、共通の脅威(主にミュータントと、たまに現れるモノリス残党)に対抗するために、なんとも奇妙な、そして常に一触即発の緊張感をはらんだ停戦協定を結び、共同で利用している古い鉄道駅「ヤノフ駅」がありました。

まるで、いがみ合う夫婦が子供のために一時休戦してるみたいな感じかしら? デグチャレフはこの駅を新たな活動拠点とし、残る墜落ヘリ(スティングレー1号機、4号機)の調査を続けます。

そして、集めた情報を分析した結果、ヘリの生存者の一部が、さらに北、ゾーンの中でも最も危険で、近づく者すべてを拒むかのような廃墟の街、プリピャチ市街地へと向かった可能性が非常に高い、という結論に達します。

さらに、ヤノフ地区での活動中、デグチャレフは奇妙な事件に遭遇します。

腕利きのストーカーたちが、次々と原因不明の失踪を遂げているというのです。

調査を進めた彼は、巨大な廃工場「ジュピター」の地下へと続く、隠された坑道を発見。

その奥深く、まるで忘れ去られた秘密基地のように存在していたのは、ソ連時代に建設された極秘の地下研究所――「X8中央研究所」でした。

そう、これこそ、かつてClear Skyのリーダー、レベデフがその存在と重要性をメモに書き残していた、あの研究所だったのです!

研究所内部は、強力な精神攻撃能力を持つミュータント「ブルジョア」(名前がまた…)や、複雑なセキュリティシステム、そして放射能汚染によって守られていましたが、デグチャレフは持ち前のスキルで潜入に成功。

そこで彼は、ゾーンの成り立ち、Psiエネルギーの性質、ミュータント生成のメカニズムなどに関する、第一級の機密資料や実験記録を発見します。

これらの情報は、C-Consciousnessが何をしようとしていたのか、そしてゾーンという現象がどれほど根深く、複雑なものであるかを、改めて浮き彫りにするものでした。

プリピャチの戦いとストレロークの再登場

全ての墜落ヘリの調査を終え、生存者がプリピャチにいるという確証を得たデグチャレフは、ついに最終目的地への潜入を決断します。

しかし、プリピャチは単独で乗り込めるような場所ではありません。

彼は、ヤノフ駅で出会い、ある程度の信頼関係を築いていた軍の特殊部隊の生き残り、コバルスキー中尉とその部下たち、そして協力を申し出てくれたズールーや他の腕利きストーカーたちと共に、チームを組んでプリピャチを目指します。

彼らが選んだルートは、プリピャチへと繋がる唯一の(比較的)安全な道とされる、放射能に汚染された長大な地下トンネル。

トンネル内は暗く、モノリス教団の残党や、闇に潜むミュータントが待ち構える、まさに死の行軍でした。

しかし、彼らは互いに協力し、それぞれの得意分野を活かして困難を乗り越え、ついに、灰色のゴーストタウン、プリピャチ市街地へと到達するのです。

プリピャチで彼らを待っていたのは、フェアウェイ作戦でこの地に降り立ち、その後、完全に孤立無援となっていた、コバルスキー中尉の部隊の生存者たちでした。

感動の再会…も束の間。

彼らが合流したことを察知したのか、プリピャチ市街に潜んでいたモノリス教団の残存勢力が、最後の抵抗とばかりに、大規模な総攻撃を仕掛けてきます。

開けた市街地で、遮蔽物も少ない中、デグチャレフと軍人たちは、圧倒的な数の、そして狂信的な覚悟を持った敵を相手に、絶望的な防衛戦、後に「プリピャチの戦い」と呼ばれる激闘を繰り広げることになります。

まさにその死闘の最中、あるいは、激しい戦闘が一時的に止んだ、張り詰めた静寂の中。

まるで舞台に登場する主役のように、しかし、何の演出もなく、ごく自然に、一人の男が彼らの前に姿を現しました。

着古したストーカー装備、しかしその佇まいは只者ではない。

その目には、ゾーンの深淵を覗き込み、そして生還した者だけが持つ、静かで、しかし強い光が宿っていました。

その男こそ、ゾーンではもはや生ける伝説、誰もがその名を知り、畏敬し、あるいは恐れる存在――ストレローク本人だったのです。

そう、『Shadow of Chernobyl』のエンディングの後、ストレロークはゾーンから完全に足を洗ったわけではなかったのです。

彼は、C-Consciousnessとの対峙で得た知識と、ゾーンでの長年の経験から、この異常地帯がいかに人類にとって危険であり、同時に複雑で、一筋縄ではいかない問題を孕んでいるかを、誰よりも深く理解していました。

そして、彼は悟っていたのです。

この巨大すぎる問題に立ち向かうには、もはや一匹狼のストーカーとしての限界がある、と。

公的な機関――つまり、政府や科学界――と連携し、組織的に取り組む必要がある、と。

プリピャチで孤立していた軍部隊との接触は、彼にとって、そのための第一歩となるはずでした。

ストレロークは、デグチャレフ(彼がSBUのエージェントであることには薄々気づいていたかもしれません)とコバルスキー中尉に対し、驚くべき提案をします。

自分が持つゾーンに関する全ての知識、経験、データを、政府に提供する。

そして、ゾーンの脅威を抑制し、最終的にはその存在を無力化するための研究に、全面的に協力したい、と。

ストレロークはまた、デグチャレフが血眼になって調べていた、あのフェアウェイ作戦失敗の真相についても、あっさりと答えを明かしました。

ヘリが次々と墜落した原因は、軍が使っていたアノーマリーマップが、全く役に立たないガラクタだったからだ、と。

なぜなら、ゾーン内のアノーマリーは、エミッションが起こるたびに、その場所や種類が、まるで気まぐれのように変化してしまうから。

作戦は、最新の情報に基づかない、無謀で、杜撰な計画だったのだ、と。

…まあ、軍のお偉いさんには聞かせられない話ですね。

ゾーンからの脱出と新たな始まり

ストレロークという、ゾーンに関する情報の宝庫であり、生ける伝説そのものである人物を確保できたことは、デグチャレフにとって、任務の目的を遥かに超える、望外の大成果でした。

彼は直ちにSBU司令部に暗号通信を送り、ストレローク保護の重要性と、プリピャチからの全部隊の緊急脱出が必要であることを伝え、大型救援ヘリの派遣を要請します。

ちょうどその時、空が不気味に赤く染まり始め、ゾーン全体を揺るがす大規模なエミッションの兆候が現れます。

彼らはプリピャチの廃墟の中で、壁が震え、地面が揺れるエミッションの恐怖を耐え凌ぎます。

そして、エミッションが収まった後、約束通り、轟音と共に複数の大型救援ヘリが飛来しました。

デグチャレフ少佐、ストレローク、コバルスキー中尉、プリピャチで生き残った兵士たち、そしてデグチャレフが道中で助け、同行を希望した風変わりな案内人ノアなどの民間人ストーカーたちも便乗し、ヘリは夜明け前の薄明かりの中を上昇。

彼らはついに、長年彼らを閉じ込めていた、あるいは彼らが挑み続けてきた、ゾーンからの脱出に成功したのでした。

ゲームのエンディングでは、デグチャレフ少佐がSBU本部に無事帰還し、この困難な任務を成功させた功績により、中佐へと昇進したことが語られます。

そして、最も重要な人物、ストレロークは、その身柄と知識を狙う様々な勢力(他の国家や、ゾーン内の過激派など)から保護するため、政府が厳重に管理する極秘の研究施設へと移送されました。

そこで彼は、ゾーン問題に関する筆頭科学コンサルタントという、なんとも堅苦しい肩書を与えられ、彼の長年の悲願であった、ゾーンの脅威の解明と、その根本的な対策に向けた研究に、本格的に協力し始めたことが示唆されます。

また、プレイヤーがゲーム中で行った様々な選択――例えば、DutyとFreedomのどちらに肩入れしたか、ズールーや他の仲間たちの生死、科学者たちへの協力度合いなど――によって、彼らのその後の運命も、エピローグとして多様に語られ、プレイヤー一人ひとりが紡いだ『Call of Pripyat』の物語に、感慨深い余韻を残します。

『Call of Pripyat』のエンディングは、S.T.A.L.K.E.R.三部作の物語に、一つの大きな、そして希望を感じさせる区切りをもたらしました。

ゾーンの最も深い謎に触れた男が、その知識を個人的な探求のためではなく、公的な目的のために役立てることを決意し、政府もまた、これまでの後手後手の対応ではなく、科学的なアプローチでこの未曽有の難問に取り組む姿勢を見せたのですから。

ゾーンの未来に、初めて、具体的な解決への道筋が見えた瞬間と言えるかもしれません。

…しかし、それはあくまで始まりに過ぎませんでした。

ゾーンそのものは、依然としてそこに存在し、その深淵には、まだ人類が理解するには程遠い、巨大な謎が横たわっていたのです。

そして、その謎の中心には、まるで時を待っていたかのように、静かに、しかし確実に脈打つ、「心臓」が存在していたのです…。

覚醒する脅威と世代の邂逅 (2024年以降)心臓(コア)の律動、あるいはノイズ

『Call of Pripyat』でストレロークがゾーンを去ってから、およそ12年の月日が流れました。

2024年。

世界は変わり、ゾーンもまた、その姿を変えていました。

ストレロークがもたらした変化――ブレインスコーチャーの沈黙――と、その後の政府による(表向きの、あるいは部分的な)介入や研究活動は、ゾーンへのアクセスを以前よりは容易なものにしていました。

かつては一部の命知らずなストーカーしか足を踏み入れなかったゾーン中心部にも、より組織化された調査隊や、アーティファクト採掘を目的とした企業(もちろん、その多くはグレーかブラックな存在でしょうけど)の影が見え隠れするようになっていました。

ゾーンは相変わらず、一歩足を踏み外せば死が待つ危険地帯であることに変わりはありません。

しかし同時に、そこに眠る未知のエネルギーや物質は、人類にとって無視できない「フロンティア」であり、「宝の山」としての側面も強めていたのです。

新しい世代のストーカーたちは、ストレロークなんて伝説は昔話程度にしか知らず、もっとドライに、今日の稼ぎと明日の生存だけを考えて、この危険な楽園(あるいは地獄)を闊歩していました。

まるで、ゴールドラッシュに沸く西部劇のようでもあり、終末後の荒野を生きるディストピアのようでもあり。

グレート・ブロウアウトとゾーンの変容

でもね、ゾーンは、人間の都合の良いように利用されるだけの、ただの場所ではありませんでした。

それは、まるで独自の意志を持っているかのように、あるいは、人間の介入という「異物」に対する拒絶反応のように、再びその牙を剥き始めたのです。

2020年代に入ると、原因不明の局地的な異常現象が頻発。

アノーマリーの活動が活発化し、ミュータントはより凶暴に、そして狡猾になっていきました。

そして、決定的な出来事が起こります。

2024年、ゾーンの観測史上、最大級にして最悪とされる、超々弩級のエミッション――人々はそれを畏敬と恐怖を込めて「グレート・ブロウアウト (Great Blowout)」と呼びました――が発生したのです。

この未曽有のエネルギー放出は、ゾーン全域の地形を文字通り書き換え、地面が裂け、新たな山が隆起し、川の流れが変わるほどでした。

そして、その爪痕として、これまで見たこともない種類のアノーマリーや、既存のミュータントがさらに恐ろしく変異・進化した新種(空を自在に飛び回り集団で襲ってくるもの、強力なPsi能力で幻覚を見せたり同士討ちさせたりするものなど)が、ゾーンの至る所に出現したのです。

ゾーンは、まるで長い眠りから覚醒したかのように、その危険度を劇的に増し、再び人類の侵入を拒む、絶対的な魔境へと変貌を遂げたのでした。

スキフとストレロークの再会

この、かつてなく危険で、混沌としたゾーンに、新たな物語の主人公が登場します。

彼の名はスキフ (Skif)

見た目はまだ若く、擦れたベテランというよりは、必死に生き抜いてきたサバイバーといった風情。

彼は、失われた家族の手がかりを求め、ゾーンのどこかにいるとされる謎多き人物「メイカー (Makhar)」を探し出すという、個人的で切実な目的を胸に、このグレート・ブロウアウト後の、変わり果てたゾーンへと足を踏み入れます。

メイカーは、ゾーンの深部で活動する伝説的な技術者か、あるいは元科学者だと噂されていましたが、その実態はほとんど誰も知りません。

スキフにとって、メイカーを見つけ出すことは、過去を取り戻し、未来への希望を繋ぐための、唯一の糸口でした。

そして、運命の歯車が、再び大きく回り始めます。

ゾーンの新たな異変を調査し、メイカーの足跡を追うスキフの前に、あの男が、まるで幻影のように、しかし確かな重みを持って、再び姿を現したのです。

そう、ストレローク

ゾーンの伝説そのもの。

かつてゾーンの核心に触れ、C-Consciousnessと対峙し、その後は政府の研究施設でゾーン問題に取り組んでいたはずの彼が、なぜ、今、再びこの場所に?

話は少し遡ります。

『Call of Pripyat』の後、ストレロークは確かに政府機関に協力し、彼の持つ比類なき知識と経験を、ゾーン対策のために提供していました。

しかし、現実は理想通りには進まなかったのです。

役所の縦割り、政治的な駆け引き、予算の壁…彼の提言や警告は、必ずしも真摯に受け止められず、根本的な解決策が見出せないまま、時間だけが過ぎていくことに、彼は次第に焦りと無力感を募らせていました。

そんな中、ゾーンで発生したグレート・ブロウアウトと、それに続く異常な活性化。

ストレロークは、これが単なる自然現象ではなく、ゾーンの根源に関わる、新たな、そしてより深刻な脅威の兆候であると直感します。

そして、彼は決断しました。

もはや、机上の空論や会議に時間を費やしている場合ではない、と。

彼は、公的な立場を半ば投げ打つような形で、再び装備を整え、単独で、あの忌まわしくも、彼を引きつけてやまない場所、ゾーンの深淵へと戻ってきたのです。

彼には、まだやり遂げなければならないことがある。

そして、ゾーンに対して、彼自身が負うべき責任がある、と感じていたからです。

新世代のストーカー、スキフ。

そして、伝説の帰還者、ストレローク。

二人の主人公は、当然ながら、最初は互いに距離を置き、警戒し合います。

スキフにとってストレロークは、過去の英雄かもしれないけれど、今のゾーンでは時代遅れの老兵に見えたかもしれません。

一方、ストレロークにとってスキフは、経験も覚悟も足りない若造に映ったでしょう。

まるで、頑固な舅と、現代っ子の婿みたいな関係性、かしら?

チョルノービリの心臓の真実

しかし、彼らは、それぞれの目的を追う中で、ゾーンで発生している奇妙な出来事――特定の場所でPsi波が異常に高まっていること、モノリス教団の残党が奇妙な活動を再開していること、そしてゾーンの中心部から、まるで心臓の鼓動のような、不気味なエネルギーパルスが発せられていること――の背後に、共通の、そして想像を絶するほど巨大な「何か」が存在することに気づき始めます。

そして、その「何か」こそが、ゾーンに古くから伝わる、しかし誰もその正体を知らなかった伝説、「チョルノービリの心臓 (Heart of Chornobyl)」と呼ばれる存在、あるいは現象だったのです。

昨年(2024年)に発売され、世界中のストーカーたちを再び熱狂させた(そして絶望させた)『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の物語を通して、この「心臓」の正体は、徐々に、そして衝撃的に明らかになっていきました。

それは、単なる強力なアーティファクトや、未知のエネルギー源などという生易しいものではありませんでした。

「心臓」とは、かつてC-Consciousnessがノウアスフィア(全人類の精神圏ネットワーク)への無謀なハッキングを試みた際に、その干渉エネルギーと、ノウアスフィア自身の防御反応(あるいは拒絶反応)とが衝突し、結果としてノウアスフィアの一部が物理世界に「欠片」として分離・結晶化してしまった、いわば「精神エネルギーの特異点(シンギュラリティ)」とでも言うべき存在だったのです。

それは、膨大な、純粋な精神エネルギーの塊であり、ゾーン全体のエネルギーバランスを不安定に維持し、アノーマリーを生み出し、ミュータントを変異させ、そしてエミッション(ブロウアウト)という巨大なエネルギー放出を引き起こす、まさにゾーンという異常現象の「動力炉」であり、「制御コア」でした。

C-Consciousnessが弱体化した後、この「心臓」は、まるで持ち主を失った暴走AIのように、半ば自律的に、しかし不安定に活動を続け、ゾーンという歪んだ現実を維持していたのです。

そして、あのグレート・ブロウアウトは、この「心臓」が、長年のエネルギー蓄積と不安定化の果てに、あるいは何らかの外部からの刺激によって、その力を一時的に暴走させた結果だったのです。

…なんてこったい。

もはやSFを超えて、オカルトか神話の世界ですね。

そして、このとんでもない「お宝」(あるいは「時限爆弾」)の存在とその力を嗅ぎつけた、新たな悪役が登場します。

それは、かつてのC-Consciousnessの生き残りか、あるいはその狂信的な思想(人類の強制的な精神進化、あるいは支配)を受け継いだ、高度な科学技術を持つ秘密結社でした。

彼らは、この「心臓」の力を完全に自分たちのコントロール下に置き、それを利用してノウアスフィアに再びアクセスし、今度こそ全人類の意識を自分たちの意のままに書き換えようと企んでいたのです。

彼らはゾーンの最深部に拠点を構え、モノリス教団の残党を最新技術で強化して手駒にしたり、新たなバイオ兵器を開発したりと、それはもう、やりたい放題。

最終決断と多様なエンディング

スキフは、メイカーを探す旅の中で、否応なくこの秘密結社の邪悪な陰謀に巻き込まれていきます。

そして、彼が必死に探していたメイカーこそ、実はかつてC-Consciousnessに関わっていた科学者の一人で、その過ちを悔い、危険すぎる「心臓」を誰の手にも渡らないように封印しようとしていた人物だった、ということが判明します。

(あるいは、別の解釈として、メイカーはストレロークの長年の協力者で、「心臓」に関する重要な鍵を握る人物だった、という可能性もありますね。この辺りはプレイヤーの解釈次第かも。)

一方、ストレロークもまた、自分自身の過去の行動――C-Consciousnessとの対決――が、結果的に「心臓」の不安定化や、秘密結社の台頭を招いたのではないか、という責任を感じ、この新たな脅威を、今度こそ完全に終わらせることを決意します。

目的は違えど、倒すべき敵は同じ。

スキフとストレローク。

最初はギクシャクしていた二人も、数々の死線を共に乗り越える中で、次第に互いを認め合い、奇妙な、しかし強力な師弟関係、あるいは戦友としての絆を結んでいきます。

スキフの若さと柔軟な発想、現代的な装備を使いこなす能力。

ストレロークのゾーンに関する圧倒的な知識と経験、そして百戦錬磨の戦闘スキル。

二人は互いの長所を活かし、短所を補い合いながら、秘密結社の執拗な追跡を振り切り、おぞましいミュータントの大群を蹴散らし、ついに「心臓」が安置されているという、ゾーンの最深部――チェルノブイリ原発のさらに地下深く、現実と異次元が交錯するような、巨大なクリスタル状の構造物が脈打つ、異常な空間――へとたどり着くのです。

そして、物語はクライマックスへ。

目の前には、計り知れない力を放つ「チョルノービリの心臓」。

背後には、その力を利用して世界を作り変えようとする秘密結社のリーダー。

そして隣には、ゾーンの全てを知り、その存在を終わらせようとする伝説のストーカー、ストレローク。

ここで、プレイヤーであるスキフは、ゾーンの、そしておそらくは人類の未来をも左右する、究極の選択を迫られることになります。

『S.T.A.L.K.E.R. 2』は、シリーズの伝統に則り、プレイヤーの選択によって結末が大きく変わるマルチエンディング方式を採用していました。

主なエンディングの方向性は、以下のようだったと言われています。

  • 破壊エンド(あるいは浄化エンド): スキフはストレロークの意志を継ぎ(あるいは、ストレロークが自らを犠牲にし)、特殊な装置や方法を用いて、「心臓」を完全に破壊します。力の源を失ったゾーンは、その異常性を急速に失い、アノーマリーは消滅し、ミュータントは死に絶え、大地はゆっくりと元の姿を取り戻していく…かもしれません。しかし、「心臓」はノウアスフィアの欠片。それを破壊した影響は未知数で、人類全体の精神性に、何か取り返しのつかないダメージを与えてしまった可能性も示唆されます。ゾーンという悪夢は終わりましたが、その代償はあまりにも大きかったかもしれない、という、ほろ苦い結末です。
  • 制御エンド(あるいは支配エンド): スキフは、秘密結社のリーダーを排除した後、自らが「心臓」の力を制御する道を選びます。彼(プレイヤー)の選択次第で、その力を封印し、厳重に管理する賢明な道を選ぶかもしれませんし、あるいはその強大な力に魅入られ、ゾーンの新たな支配者として君臨し、世界に影響を与えようとするかもしれません。後者の場合、彼は第二のC-Consciousnessとなる危険性を孕んでいます。ゾーンは存続し、その未来はプレイヤーの倫理観に委ねられるという、非常に重く、そして不安定な結末です。
  • 共存エンド(あるいは封印・安定化エンド): スキフは、「心臓」を破壊することも、完全に制御することも選びません。彼は、「心臓」の暴走を抑え込み、そのエネルギーを安定化させる方法を見つけ出し、実行します。ゾーンは消滅しませんが、その危険性は大幅に緩和され、アノーマリーやミュータントの活動も抑制されます。人類は、ゾーンという存在を認め、その危険性を管理しながらも、そこから得られる恩恵(アーティファクトなど)と共存していく、新たな道を探ることになります。これは、完全な解決ではありませんが、破滅を回避し、未来への可能性を残す、最も現実的で、ある意味で最も困難な道かもしれません。スキフは、ゾーンの監視者として、あるいは新たな時代のストーカーのリーダーとして、この変化したゾーンで生きていくことを選ぶのでしょう。

どのエンディングが「真のエンディング」なのか? 開発元は、2025年4月の現時点でも、それを明確にはしていません。

それはおそらく意図的なもので、プレイヤー一人ひとりが下した決断とその結果を尊重し、「あなたのゾーンの物語」を大切にする、S.T.A.L.K.E.R.らしいやり方なのでしょう。

コミュニティでは、やはり単純な破壊や支配ではなく、困難だけれども未来への希望を繋ぐ「共存・安定化エンド」が、シリーズが問い続けてきたテーマ――人間と未知なるものとの関係性――に対する、一つの成熟した答えではないか、と考える人が多いようですね。

ともあれ、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は、長年の沈黙を破って、見事に復活を遂げました。

それは、シリーズの壮大な物語に一つの大きな区切りをつけると同時に、ゾーンという世界の、さらに奥深い、底知れない可能性と、新たな謎を示唆するものでした。

明らかになった真実と同じくらい、いや、それ以上に多くの問いを残して。

そう、ゾーンの物語は、決してこれでは終わらない。

終わらせてくれない。

それが、ゾーンという場所の魔力なのですから。

公式の外側、コミュニティという生命線拡張する現実(ゾーン)

さて、ここまでS.T.A.L.K.E.R.シリーズの公式な物語を追ってきましたけど、この世界の魅力は、それだけじゃないんです。

特に、ゲーム本編と同じくらい、いや、人によってはそれ以上に熱いのが、公式の外側で、ファン自身の手によって育まれてきた、広大な「ゾーン・ユニバース」の存在です。

公式ライセンス小説とコミュニティ作品

まず、特にロシア語圏を中心として、膨大な数の公式ライセンス小説が出版され続けていること。

これらは、ゲーム本編のストーリーを補完したり、別のキャラクターの視点からゾーンを描いたり、あるいは「もしも」の世界を探求したりと、実に多種多様。

残念ながら、日本語で読めるものはほとんどないんですけど、これだけ多くの作家が二次創作(公式ライセンスだけど)に乗り出すってこと自体が、S.T.A.L.K.E.R.の世界観がいかに豊かで、人々を惹きつける力を持っているかの証明ですね。

まるで、ゾーンそのものが、物語を生み出すアノーマリーみたい。

MODコミュニティの力

そして、S.T.A.L.K.E.R.を語る上で絶対に外せないのが、世界中のファンたちが作り上げてきた、驚くほど活発で、高品質なMOD(Modification)コミュニティの存在です!

ゲームのグラフィックを綺麗にしたり、武器を追加したりなんてのは序の口。

中には、ゲームシステムを根底から作り変えたり、全く新しいストーリーやクエストを追加したり、果ては複数の作品のマップを全部繋げて巨大なオープンワールドを再構築しちゃったり…と、もはや公式の開発チームも顔負け(?)なレベルの、とんでもないMODがたくさんあるんです。

  • 『Lost Alpha』: 『Shadow of Chernobyl』の開発段階で没になった幻の要素を、ファンの手で蘇らせようとした、伝説的な大型MOD。製品版とは違う、もう一つのS.T.A.L.K.E.R.体験。
  • 『MISERY』: 『Call of Pripyat』をベースに、「とにかくリアルで、とにかくキツいサバイバル」を追求したドM…いえ、ハードコアゲーマー向けの超高難易度MOD。食料も弾薬もカツカツ、装備はすぐ壊れる。生き残れたら奇跡。
  • 『S.T.A.L.K.E.R. Anomaly』: シリーズ三部作のマップを全部統合し、元のゲームを持っていなくても単体で遊べるようにした、現代MODシーンの決定版ともいえる巨大プラットフォーム。無数のアドオンで自分好みのゾーンを作り上げ、独自のストーリーモードや派閥(国連の秘密組織UNISGとかね)も楽しめる。これだけで一生遊べるんじゃないかしら…。
  • その他にも、『GAMMA』(Anomalyをさらにハードコア&リアルにしたパック)、『Escape From Pripyat』(タルコフ風のシステムを取り入れたMOD)など、挙げ始めたらキリがないほどのMODが存在し、それぞれが独自の魅力と、異なるゾーン体験を提供しています。

もちろん、これらのMODは、あくまで非公式なファン創作

公式のストーリー設定(カノン)とは違う部分もたくさんあります。

でもね、特に『Call of Pripyat』から『S.T.A.L.K.E.R. 2』までの長い空白期間、S.T.A.L.K.E.R.という世界を忘れさせず、むしろファン自身の手で進化させ、コミュニティを繋ぎ止めてきたのは、間違いなくこのMOD文化の力なんです。

もしかしたら、公式の開発チームも、この熱心なコミュニティから、何かしらの刺激やアイデアを得ていたのかもしれませんね。

これって、ちょっと面白い視点だと思いません? ゾーンという場所自体が、人間の意識(ノウアスフィア)の不安定さや可能性が物理的に現れたものだとしたら、このMODコミュニティの活動って、まるでゾーンに対する集合的な「夢見」や「シミュレーション」みたいじゃないかしら。

ファン一人ひとりが、自分だけのゾーンを夢想し、それを形にし、共有することで、ゾーンという概念そのものが、公式の枠を超えて、多様に、そして有機的に拡張していく。

もしかしたら、MODコミュニティ自体が、ゾーンという存在を構成する、重要な一部なのかもしれない…なんて、ちょっと考えすぎかしら? でも、それくらい、S.T.A.L.K.E.R.とファンの関係って、特別で、熱いんです。

未解決の残響と未来への問いエコーとクエスチョン

さて、長々とS.T.A.L.K.E.R.の物語とその周辺を旅してきましたが、最後に、まだゾーンに残響のように響いている、未解決の問いについて、少しだけ触れておきましょう。

『S.T.A.L.K.E.R. 2』で多くの謎に答えが出たとはいえ、全ての疑問が氷解したわけではありません。

むしろ、新たな疑問や、解釈の余地が生まれた部分もあります。

それがまた、この世界の奥深さであり、私たちを引きつけてやまない魅力でもあるんですけどね。

  • C-Consciousnessの「その後」は?: 彼らは完全に消滅したのか、それとも意識の断片がどこかに残っているのか? 「心臓」との関係は? 彼らが残した技術やデータが、第三者の手に渡って悪用される危険性は? 集合意識体って、そもそも「死ぬ」という概念があるのかしら?
  • スカーの物語は本当に終わったのか?: 結局、『Clear Sky』の主人公スカーの明確な結末は語られませんでした。彼はただ死んだのか、それとも彼の特異な体質が、何か予想もつかない変化を引き起こしたのか? ゾーンと一体化した、なんて詩的な解釈もありますけど、真実は藪の中。いつか、彼の物語に光が当たる日は来るのかしら?
  • ミュータントたちの行く末: ゾーンの環境変化や、「心臓」の状態の変化によって、ミュータントたちは今後どうなっていくのでしょう? ただの凶暴な獣であり続けるのか、それとも、中には知性を獲得し、人間と対話可能な存在が現れたり…しないかしら? ちょっと見てみたい気もするけど、怖い気もするね。
  • 謎の派閥「Sin」の正体: 設定資料や噂レベルでは存在が囁かれながら、結局シリーズを通して謎に包まれたままのカルト教団「Sin(シン、罪)」。彼らは一体何を信じ、何を目的としていたのか? モノリス教団とは違う、別の形の狂信? 彼らが今後のゾーンで暗躍する可能性は?
  • 「心臓」とノウアスフィア、そして人類の未来: 『S.T.A.L.K.E.R. 2』のエンディングで下された選択は、ゾーンだけでなく、地球全体の精神圏であるノウアスフィアに、どんな影響を与えたのでしょう? ゾーンの外の世界への影響は? 人類の集合的な意識や精神性は、この出来事を経て、どう変わっていくのかしら? 考え出すと、壮大すぎて頭が痛くなりそうですわ。
  • ストレロークは、どこへ行ったのか?: ゾーンの運命に深く関わり、多くのものを背負ってきたストレローク。彼は『S.T.A.L.K.E.R. 2』の後、どこで何をしているのでしょう? ようやく静かな生活を手に入れたのか、それとも、まだ彼の戦いは終わっていないのか? 彼の物語は、これで本当に完結したのでしょうか? 個人的には、どこかで静かに暮らしていてほしい気もしますけど…彼みたいな人は、そう簡単には引退できないのかもしれませんね。

これらの問いに、明確な答えはありません。

もしかしたら、永遠に答えが出ないのかもしれない。

でも、それでいいのかもしれません。

ゾーンという存在自体が、人間の理解を超えた、複雑で、曖昧で、多層的なものなのだとしたら、そこに完全な答えや、白黒はっきりした結末を求めること自体が、人間の傲慢さなのかもしれません。

問い続けること、考え続けること、そして、自分なりの答えを探し求めること。

それこそが、ゾーンと向き合うということなのかもしれませんね。

ゾーンは、あなたの中にも響いている結び

さあ、長くて、ちょっと(いや、かなり)込み入ったゾーンの物語ツアーも、そろそろ終点です。

お疲れ様でした。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。

居眠りしませんでした? 大丈夫?

チェルノブイリという、私たちの世界の現実の傷跡から生まれた、S.T.A.L.K.E.R.という物語。

それは、ただの撃ち合いゲームでも、モンスター退治ゲームでもありませんでした。

それは、科学という名の傲慢さ、人間の心の奥底に潜む欲望や恐怖、未知なるものへの畏れと好奇心、そして、どんな過酷な状況でも生き抜こうとする、人間のしぶとさと、脆さと、そしてほんの少しの希望を描いた、壮大で、物悲しく、そしてどこか哲学的な叙事詩でした。

ゾーンという、現実と悪夢がごちゃ混ぜになったような場所。

C-Consciousnessという、歪んだ理想が生んだ悲劇。

アノーマリーという、物理法則さえ書き換える不可思議な現象。

アーティファクトという、危険と恩恵を同時にもたらす奇跡の産物。

そして、ミュータントやゾンビという、変わり果てた生命の姿。

それら全てが、私たちに何かを問いかけてくるようでした。

ストレローク、スカー、デグチャレフ、そしてスキフ。

彼ら主人公たちの孤独な戦いを通して、私たちはゾーンの核心に触れ、その変化を見届け、そして最後の選択を迫られました。

ゾーンをどうするべきか? 破壊か、制御か、それとも共存か? そこに絶対的な正解はありませんでした。

どの道を選んでも、必ず何かを得て、何かを失う。

まるで、私たちの人生そのもののように。

『S.T.A.L.K.E.R. 2』で物語は一つの節目を迎えましたが、ゾーンという存在が投げかける問いは、まだ私たちの心の中に響いているはずです。

未知なるもの、理解できないものと、私たちはどう向き合っていくべきなのか? テクノロジーの進歩と、人間としての倫理観の間で、どうバランスを取っていくべきなのか? 極限状況に置かれたとき、私たちは何を信じ、何を守ろうとするのか?

もしかしたら、「ゾーン」は、チェルノブイリにあるだけじゃないのかもしれません。

それは、私たちが生きるこの複雑で、予測不能で、時に不条理な現実世界の、一つのメタファーなのかもしれません。

私たちの心の中に潜む、制御できない感情や、理解できない他者、あるいは、抗うことのできない社会の流れ。

それら全てが、私たちにとっての「ゾーン」なのかもしれません。

だから、S.T.A.L.K.E.R.の物語は、ゲームの中だけで終わるものではないんです。

それは、私たち自身の生き方や、世界との向き合い方を、改めて考えさせてくれる、深く、そして重い問いかけでもあるのです。

この記事が、あなたのゾーンでの冒険の記憶を呼び覚まし、その物語の奥深さを再発見する、ささやかな手助けとなれたなら、ライター冥利に尽きますわ。

ゾーンは危険で、理不尽で、心が折れそうになることも多い場所。

でも、その灰色の風景の中には、確かに、他では得られない興奮と、発見と、そして自分自身と向き合うための、貴重な時間が流れているのです。

さて、長話にお付き合いいただき、ありがとうございました。

そろそろ私も、現実という名のゾーンに戻らなければ。

締め切りとか、夕飯の献立とか、息子の宿題とか…色々ありますからね。

では、最後に、ゾーンの流儀で。

足元のアノーマリーには気をつけて。

ボルトを投げるのを忘れずに。

そして…

Good hunting, Stalker! あなたのゾーンが、実り多きものでありますように。

-その他