『時の車輪』(The Wheel of Time)は、ロバート・ジョーダン(James Oliver Rigney Jr.)が着手し、その逝去後にブランドン・サンダースンが後を継いで完結したファンタジー小説シリーズです。
全14巻+外伝1冊という莫大なボリュームを誇り、数多くの登場人物、複雑な政治情勢、魔法体系、そして
時間が車輪のように回り続ける
という独自世界観で読者を魅了し、長年にわたって多くのファンを獲得しています。
本記事では、その「時の車輪」のストーリーを最終巻の結末に至るまで余すところなくネタバレ全開でまとめ、かつ世界観の考察や見どころを深掘りしていきます。
書誌情報的には長大すぎて、
「あれ、私いつから読んでいるんだっけ?」
と日付と曜日の概念を見失う方もいるでしょうが、今回はできる限り筋を整理し、さらにユーモアやシュールさを織り交ぜながら解説していきます。
ここから先、大規模なネタバレを含みますのでご注意ください。
では、目を離した瞬間にトロルが襲ってきても知らないわよ……
という軽い戦慄を感じながら、どうぞ最後までお付き合いください。
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時間の円環と「時の車輪」
『時の車輪』の世界では時間は直線ではなく円環、あるいは車輪のように回転するとされ、「創造主(Creator)」という存在がこの車輪を作って世界を紡いでいると示唆されます。
一方、「闇王(The Dark One)=シャイタン」は車輪を破壊し世界を無に帰そうと企む敵対的存在。
車輪の七つの輻がそれぞれ“時代(Age)”に相当し、回転するにつれて過去と似て非なる歴史が再来する――つまり、過去に起きた英雄譚が形を変えて繰り返される可能性があるのです。
何だかこの設定、輪廻転生っぽい匂いが漂いますが、まさにヒンドゥー教や仏教の思想を思わせる部分もあり、
時の車輪が回り続ける限り、死んだ英雄や闇の勢力も再び蘇る
とされるのが本シリーズの大きな骨格。
加えて、転生モチーフは主要キャラクターたちの
過去の自分(または前世の意識)
にも強く関係します。
竜王(ドラゴン)とは
かつての大破滅(Breaking of the World)で世界を救った英雄ルーズ・セリン・テラモンが再び現れる、これこそが「竜王の再来(ドラゴン・リボーン)」という予言です。
本作の主人公ランド・アル=ソアは、まさしくその竜王として運命づけられた存在。
平凡な田舎青年だった彼が、闇の勢力に追われることで
「もしかして俺、世界の救世主なの……?」
と自覚していく過程が冒頭の物語を駆動していきます。
「竜王が再び立ち上がり、闇の王を封印し、世界をもう一度救うはずだ」
という伝承が世界中に広まっている一方、
「竜王の再来は世界を混乱に導く破滅の象徴だ」
と恐れられてもいる。
実際、ランド・アル=ソアの登場は政治的にも宗教的にも一大イベントになってしまい、人々が右往左往していくわけです。
絶対力(One Power)と魔法体系
サイディンとサイダー
魔力は男女別々の源を介して扱われるのが本作の大きなポイント。
- 男性原力:サイディン(Saidin)
- 女性原力:サイダー(Saidar)
人はチャンネル(織り/weaving)によって絶対力を引き出し、多彩な“織り”を駆使して現象を起こします。
ところが3000年前に闇王がサイディンに“汚れ”を付与したせいで、男性魔術師は力を使えば使うほど狂気に陥るリスクがある。
これは物語前半の大きな悲劇として立ちふさがり、ランド・アル=ソア自身も
「狂って世界を破滅させるのでは」
と怖れを抱えながら力を使わざるを得ません。
アエズ・セダーイ(女性魔術師集団)
女性チャンネル者はタール・ヴァロンの白い塔に集い、「アエズ・セダーイ」を名乗って世界秩序を守る……と言いつつ、実際は政治にも大きく介入している勢力。
頂点に立つのがアミルリン座(最高責任者)、その下に青や緑、赤など七つのアジャ(派閥)があって、それぞれ思想や役割が違います。
男性チャンネル者は穢れの問題もあって非常に危険とされており、過去にはアエズ・セダーイによって力を奪われる(去勢:ジェントリング)ことが常でした。
なので、男の魔術師=恐怖の対象。
後述するランド・アル=ソアが
「男の魔術師かもしれない」
と判明すると、そりゃあ世界中が騒然となるのも無理はない……という状況です。
闇の王シャイタンとフォーセイクン
対立軸としては「創造主」が善の面を担うのに対し、「シャイタン(闇の王)」は車輪を崩壊させて永遠の混沌へ導こうとする悪の化身として封印されています。
しかし世界各地でその影響が漏れ出し、闇落ちした強力魔術師「フォーセイクン(選ばれし者)」たちを通じて暗躍する。
イシャマエル、ランフィア、グラエンダル、デマンドレッドなど、一癖も二癖もある面々が3000年ぶりに封印を解かれて復活するのが物語のキモ。
闇側にはトロル、ドラッグカー、ゴーレムといった怪物兵士や、各国に潜む闇の友(Darkfriend)なども含まれ、当初は「うわあ怖いな」ぐらいの印象でも、中盤以降は
「ちょっとあんたら多すぎません!?」
と言いたくなるほど大量に出没してきます。
さて、前提の設定はだいたいこんな感じ。
ここからは各巻のあらすじをざっくりたどり、最終決戦の「ターモン・ガイドン」へ至るまでの主要イベントを追っていきます。
あまりの長大さに、一気にダンゴ3兄弟くらいの結束感で押し寄せてきそうですが、なるべく話の筋を整理しつつ要所を深く見ていきましょう。
第1部『竜王伝説(The Eye of the World)』
- 物語開始:998 NE 春、エモンズフィールド
農村の青年ランド・アル=ソアは幼馴染ペリン・エイバラ、マット・コーソンらと平和に暮らす。
そこへ突然トロル軍団が襲来し、「アエズ・セダーイ」のモイレインと守護役ランが登場。
「狙われてるのはあなたたちかもしれない」
と告げられ、ランド・アル=ソアたちは村を離れて逃走。 - 呪われた廃墟シャダー・ログスで散り散り
吟遊詩人トム・メリリンや賢女ナイニーヴ、村長の娘エグウェーンなども巻き込まれ、混乱の旅路。
最終的にはアイ・オブ・ザ・ワールド(聖地)へ集結し、フォーセイクン・アグノールとベール=ゾーモンと対決。 - ランド・アル=ソアが不覚にも魔力を使ってしまい勝利
これで
「もしかして自分は男の魔術師なのか?」
と戦慄する結末。
モイレインは「竜王の再来(ドラゴン・リボーン)」かもしれないと確信しつつ、何やら意味深に微笑む。
ここまでで、
「あ、ランド・アル=ソアって男の魔術師疑惑あるんだ。しかも竜王の生まれ変わり?」
という伏線が提示され、一気に世界が動き出す。
第2部『聖竜戦記(The Great Hunt)』
- 「ヴァレールの角笛」盗難事件
「死者の英雄を呼び起こす」という伝説の角笛をめぐる追跡劇が展開。
マットは呪われた短剣で命の危機に瀕しており、それも取り戻すためランド・アル=ソアたちは必死。 - ショーンチャン帝国初登場
西方から大陸を侵略してきた勢力。
女性チャンネル者を〈あだむ〉という首輪で奴隷化する文化を持ち、エグウェーンが捕らえられる。 - ファルムでの決戦&角笛吹奏
追いつめられた中、マットが角笛を吹き鳴らし、アートゥル・ホークウィングら英霊が出現して援護。
ランド・アル=ソアは再びベール=ゾーモン(イシャマエル)と空中決闘し、辛勝を収める。
上空に巨大な竜の紋章が浮かぶ派手な演出もあり、
「ランド・アル=ソア=竜王の再来では」
と世界中に知れわたる決定打となる。
第3部『神竜光臨(The Dragon Reborn)』
- ランド・アル=ソアが自分の運命に苦悩し逃走
彼は「カランドア」という聖剣サングリアルを求め、単独でティールの石筍へ。
マット、ペリン、エグウェーンらがそれぞれ別ルートで合流を目指す流れに。 - クライマックス:ティールの要塞
フォーセイクンのベラルやイシャマエルが待ち受け、ランド・アル=ソアは激突しつつカランドアを引き抜く。
これにより「真の竜王の再来」宣言が事実上確定。
ランド自身も運命を半ば受け止める形に。
ここまででランド・アル=ソアは
「うん、オレ竜王かもな……」
と自覚。
周囲も否定しようがないほど伝説通りの行動を見せ、世界が本格的に動き出す。
第4部『竜魔大戦(The Shadow Rising)』
- アイール族との接触
ランド・アル=ソアはカランドアを得ながらティールを治めつつ、予言に従いアイールの荒野「ルイディーン」へ向かう。
砂漠での過酷な旅、そこでカラ=カーン(大いなる酋長)として迎えられる運びに。 - ペリンの故郷防衛戦
二河がトロルに再襲撃され、ペリンは故郷を必死に守る。
アイール族の対立派(シャイドー族)も暗躍し、西方世界に大きな衝撃を与える。 - ナイニーヴ&エレインのターンチコ潜入
闇アジャ探索&フォーセイクン「モゲディエン」と対峙。
か弱い(?)淑女のふりをして果敢に戦う場面が多くなる。
最終的にランド・アル=ソアがアイール族の多数派を率いて西方へ進軍開始。
内戦状態も抱えつつ、
「あれ、ランド・アル=ソアってついに軍事覇者の立場?」
という大変な局面へ。
第5部『竜王戴冠(The Fires of Heaven)』
- シャイドー族とカイリエン攻防
ランド・アル=ソアはシャイドー族と激突してカイリエン国を救う。
その直後にフォーセイクン・ラーヴィンがアンドール王都を牛耳っていると判明。 - 激闘の末、ベイルファイア乱用
ランド・アル=ソアは仲間を殺された怒りで禁断魔法ベイルファイアを放ち、ラーヴィンを時間ごと焼き消す。
仲間は“死の巻き戻し”で蘇るが、世界のパターンに大きな傷を残した可能性も。 - モイレイン、ランフィアとともに謎の門へ消失
永遠の別れっぽい雰囲気で姿を消し、ランド・アル=ソアは大きな精神的ダメージを受ける。
さらに事実上カイリエン&アンドールを支配した格好になり、政治的にも孤立。
第6部『黒竜戦史(Lord of Chaos)』
- 黒塔(ブラック・タワー)の創設
ランド・アル=ソアが“アシャマン”(男性魔術師の軍事組織)を育成しようと動く。
マズリム・テイムという偽竜だった男を指揮官にするが、危険そうな予感しかしない。 - タール・ヴァロンの内乱
紅アジャのエライダがクーデターを起こし、元アミルリン座スワンを失脚させる。
塔は分裂し、エグウェーンが“反乱派アエズ・セダーイ”の支持で新アミルリンに推される。 - ランド・アル=ソア誘拐事件&ダマイエスの井戸の戦い
エライダ派がランド・アル=ソアを捕らえ、箱に閉じ込めて拷問。
しかしランド・アル=ソアはペリンやアシャマンらに救出される。
黒塔の男たちが恐るべき力を発揮し、アエズ・セダーイ相手に
「跪け。さもなくば跪かせる」
などという物騒なフレーズが流行語のように飛び交い、塔との対立が決定的になる。
ここでランド・アル=ソアの精神はさらに追い詰められ、「誰も信用できない。オレは世界を救うためならどんな手段も使うぞ」的に冷酷化。
読者は
「大丈夫なのか、このドラゴンの再来……?」
と不安になる展開。
第7~8部あたり『昇竜剣舞』『竜騎争乱』
中盤のやや停滞期といわれるが、実は重要なエピソードが散在する。
- 闇のフォーセイクン掃討
サマエルやセミラゲ、グラエンダルが各地で暗躍し、ランド・アル=ソアはイルイル国を制圧。
サマエルをシャダー・ログスで倒すが、邪悪な霧マシャダーに味方も巻き込まれたりして自己嫌悪を深める。 - ショーンチャン勢再侵攻
ランド・アル=ソアは巨大なサ・アンガリアルを用い、空から無数の光線を降らせてショーンチャン軍を破る。
が、反動が酷く身体も心もボロボロ。 - ナイニーヴ&エレイン「天候を司る碗」起動
長く続いていた異常気象(猛暑)を正すため、強力な儀式を執り行う。
すると大嵐が発生し、世界各地で洪水や混乱。
まあ、空は気まぐれということで。 - ペリンの妻ファイール奪還計画
シャイドー族に捕えられたファイールを救うため、ペリンが苦戦。
村育ちなのに大戦争気分で大丈夫?
と不安になるが、ひたすら狼の力など駆使して追跡する。 - エレインのアンドール王位継承
母モルゲイズ行方不明で混乱するアンドール国内の統治者として台頭。
細々した内戦ドラマが続くが、最終的にエレインは支配を固めて女王となる道を歩む。
ランド・アル=ソアはこの間も酷いストレスに晒され、男性原力サイディンの汚染で狂気が迫り、内心は
「いつか自分が世界を壊してしまうのでは」
と戦々恐々。
周囲も
「冗談抜きでやばい。なんとかしてくれ」
と怯えつつついていく構図。
第9部『闘竜戴天(Winter’s Heart)』
ここで大きな転機。
「サイディン浄化」事件が起きる。
- ランド・アル=ソア&ナイニーヴ、シャダー・ログスで大魔法
男女共用サ・アンガリアル“チョーダン・カー”を使い、サイディンから闇王の穢れを除去することに成功。
フォーセイクンたちが妨害するも、守り抜く形で勝利。 - 浄化の代償
男性魔術師が狂わずに済むようになる一方、ランド・アル=ソア自身はさらなる反動を負い精神はギリギリ。
仲間も
「おめでとう……だけど、あなた、表情死んでますよ」
と不安が増大。 - マットとショーンチャン女帝トゥオンの出会い
彼は「運命の相手」として結婚(?)することになり、誘拐してるのに向こうもなんか乗り気っぽいという複雑怪奇な展開に。
愛は理屈じゃないと言いますが、理屈どころか常識が飛んで行くノリ。
ペリンは依然としてファイール救出に奔走し、エレインはアンドール女王即位を本格化……
とそれぞれが動く時期。
サイディン浄化はシリーズの流れを大きく変え、男性アシャマンを堂々と増強できる環境が整うわけです。
第10部『幻竜秘録(Crossroads of Twilight)』
- サイディン浄化の余波
世界各地で
「空に黒雲と白光が渦巻いてたけど何?」
「ランド・アル=ソアが何かやらかしたらしい」
など噂が飛び交うが、真相を知るのはごく一部。 - エグウェーン、タール・ヴァロンへ突撃→逆に捕縛
塔内の裏切りにより投獄されるが、誇り高く絶対に屈しない態度でむしろ相手の心を動かしていく。
アミルリン座としての威厳がどんどん増していくステージ。 - ペリン vs シャイドー族
妻奪還が進み、傭兵集団も取り込んで地道に前進。
なにせ
「妻が捕まってます!」
って直情型で燃える要素もあるから、ペリンの狼っぽさが全開。
マットはトゥオンとあっちへ行ったりこっちへ行ったりでラブコメ(?)しつつ逃避行。
全体的に「嵐の前の準備期間」のような巻だが、物語世界では現実に数日~数週間が経過している程度の時間感覚とされ、読者の体感とは乖離が激しい点が逆に面白いところ。
第11部『竜神飛翔(Knife of Dreams)』
ロバート・ジョーダンが最後に書いた巻。
長年積み上げてきた謎や伏線が部分的に回収される。
- ペリン、ファイール救出成功
血みどろの戦闘を経て、ついに妻を取り戻す。
預言者マセーマも倒し、ランド・アル=ソアの下へ合流の兆し。 - マット vs ゴーレム決着
銀狐メダリオンなどを駆使し、因縁のゴーレムを罠にかけ撃破。
トゥオンとの仲も進展し、正式な婚約成立。
ショーンチャン帝国の皇婿という飛躍っぷりが笑うしかない。 - エグウェーン、白い塔をまとめ上げる
拘束されても負けず、一部の姉妹を味方につけ、さらにショーンチャンの奇襲に対抗。
エライダは捕縛され、塔は再統一へ。黒アジャ摘発も進む。 - ランド・アル=ソア、ドラゴンマウントで覚醒
「全てを滅ぼしてしまえば楽になる」
という破滅願望に陥ったが、最後に“喜び”を思い出し大悟の境地に至る。
冷酷路線を捨て、穏やかな笑みを浮かべる新しいランド・アル=ソアが誕生した瞬間。
読者も
「やっと闇落ち寸前のランド・アル=ソアが救われた!」
と胸を撫で下ろすシーン。
ここでジョーダンが亡くなり、シリーズは未完……
かと思いきや、妻ハリエットが
「ブランドン・サンダースンを後継に」
と指名し、第12~14部に続くことに。
第12部『飛竜雷天(The Gathering Storm)』
ブランドン・サンダースンがジョーダンの残した大筋を基に執筆。
- ランド・アル=ソア、世界各国に和平を提案
「最後の戦いに集中するため、みんな小競り合いやめなさい」
と呼びかけ、“ドラゴン・ピース”構想を打ち出す。 - ショーンチャン女帝トゥオンと直接会談
一筋縄ではいかないが、脅しも交えて何とか停戦を取り付ける。 - 黒塔の内紛
マズリム・テイムが闇王に寝返り、多くのアシャマンを洗脳か闇落ちさせる。
塔内で正統派と分裂し、内情は混沌。 - マット、フィン族の世界へ再挑戦しモイレイン救出
生きていたのかモイレイン!
ただし力は大幅に弱まり、いろいろ負傷もあるが、ランド・アル=ソアたちに再会できる大きな希望となる。
最後に「メリロル会議」と呼ばれる首脳大集合が開催され、ランド・アル=ソアは
「闇王の封印を全部壊した上で作り直す」
と宣言。
みな反対したが最終的に合意し、本当に最終決戦(ターモン・ガイドン)へ突き進むことに。
第13部『Towers of Midnight』
- メリロル平原に闇軍襲来
フォーセイクン・デマンドレッドが東方シャラ国の軍勢を率いて出現し、トロルや黒アシャマンも大量投入。
光軍が次々に失敗するのはフォーセイクン・グラエンダルの傀儡術のせい。 - エグウェーンとマットが指揮を引き継ぎ、どうにか踏ん張る
カイリエンやアンドールの奪還戦に加え、カンドール方面も壊滅寸前。戦況は悲惨を極める。 - ペリンは夢世界でSlayerとの死闘
シャイオール=グルへ向かうランド・アル=ソアの暗殺計画を阻止するため奔走。
ファイールはホーン・オブ・ヴァレールを守る任務で命がけ。
戦況が最悪なまま最終巻へ。
ランド・アル=ソアはシャイオール=グル奥深くへ足を踏み入れ、「闇王を封印し直す」作戦を実行しようとしている。
第14部『A Memory of Light』――最終決戦と結末
メリロル平原の戦い
- 総司令官マット・コーソン
エグウェーンが四大将軍の不可解なミスに気づき、グラエンダルの「コンプルション(傀儡)」が原因と看破。
マットを指揮に据え、内通者を炙り出す。 - デマンドレッド vs ラン・マンドラゴラン
デマンドレッドはサ・アンガリアル“サカールネン”を握りベイルファイア乱射。
ランはガウェイン・ガラドらの挑戦も撃破してきたデマンドレッドに一騎打ちを挑み、相打ち覚悟で剣を突き通して勝利。
自らも重傷を負うが、闇軍の大将を討ったのは大きい。 - エグウェーンの自己犠牲
マズリム・テイム(M'Hael)が率いる黒アシャマンがベイルファイアを連発し戦場を壊滅させそうに。
しかしエグウェーンが開発した対抗呪文「タール・ヴァロンの炎」を発動し、時の歪みを修復すると共に自分自身も灰となる。
感動の殉死で、敵部隊を道連れにする。 - 角笛の召喚
少年オルヴァーがホーン・オブ・ヴァレールを吹き鳴らし、バーギットやホークウィングら死せる英雄が再び具現化。
勢いづいた光軍はショーンチャンの再参戦もあって逆転に成功。
最終的にメリロル平原は光側が辛勝する。
シャイオール=グル内部ランド・アル=ソア vs シャイタン
- ランド・アル=ソアとモリディン(イシャマエル)の一騎打ち
洞窟へ入り込んだランド・アル=ソアは闇王の「虚無空間」に意識を引きずりこまれ、善のみor悪のみの未来を見せられ誘惑される。
でも彼は
「闇があるからこそ人々は善を選べる。闇を消し去れば自由意志も消滅する」
と悟り、闇王を抹殺せず“再封印”する。 - 最終封印破壊&再構築
ナイニーヴとモイレインがカランドアの弱点を逆手に取り、モリディンの身体を使って三源融合の織りを作り上げる。
黒塔のログレインらが最後の封印を砕き、ランド・アル=ソアが闇王そのものを車輪の外へ押し戻す形で封じ込める。 - ランド・アル=ソアの死と再生
闇王に対抗し肉体を貫かれたランド・アル=ソアは一度“死”を迎えるが、実際にはランド・アル=ソアとモリディンの魂が肉体を入れ替える結果に。
火葬されたのはランド・アル=ソアの旧身体にモリディンの魂が入ったもの。
ランド・アル=ソアの魂はモリディンの身体で目を覚まし、魔力を感じなくなった代わりに不思議な“パターン操作”の力をほのめかす。
結末主要キャラのその後
- ランド・アル=ソア
真の竜王として闇王を再封印し、英雄の務めを終えた。
新身体で密かに生き延び、仲間の前から姿を消す。
エレイン、ミン、アビエンダら3人のパートナーだけがその事実を知る。
世界には「ランド・アル=ソアは死んだ」として扱われ、火葬の場も盛大に行われたが、実は笑顔で自由を得ている。 - エグウェーン・アル=ヴィア
最終決戦の自己犠牲で死亡。
彼女の意志は塔に語り継がれ、新アミルリン座はキャズウェインが半ば強制的に就任させられる。 - マット・コーソン
軍略の鬼才ぶりを発揮し、最後まで闇軍を翻弄する。
ショーンチャン女帝トゥオンと夫婦関係を結び、西方大陸を救った“プリンス・オブ・ザ・レイヴンズ”として家族を築くらしい。
子どもも近い? - ペリン・エイバラ
夢世界で暗殺を阻止し、Slayerを倒し、最後はファイールと生還。
彼は故郷二河へ戻り、伝説の“狼王”として落ち着く道を選ぶ。
国家統治とかに興味なし。 - ナイニーヴ・アル=メアラ
治癒の達人として成長を遂げ、ランの瀕死を救う。
マルキリエ復興を支えつつ、最後までランド・アル=ソアの作戦を助けた立役者の一人。 - エレイン・トラカンド
アンドール女王に正式即位し、ランド・アル=ソアとの子供(双子)を身ごもる。
戦後は国の復興へ尽力。
ランド・アル=ソアが実は生きていることを察しているが公にはしない。 - モイレイン・ダモドレッド
後半でマットに救出され復活。
パワーは多少落ちているが、知識や洞察力は健在。
メリロル会議でも大きな役割を果たし、最後のカランドア作戦にも欠かせない存在。 - ショーンチャン帝国
トゥオンとマットの結婚により、光側に大いに貢献。
ただし奴隷(ダマネ)制度はしばらく存続のまま。
大きな改革は示唆されつつも、シリーズ終幕時点では確定的な結論はなし。 - ブラック・タワー(アシャマン)
ログレイン率いる正統派が闇落ちマズリム・テイムを排除。
サイディン浄化後は正気を保てるため、戦後はアエズ・セダーイとも協力関係を築く展望があるが、これもまだ道半ば。
世界は莫大なダメージを負いつつも闇王を封じ込め、新たな第四紀へ突入。
ただ戦後復興やショーンチャンとの共存など課題は山積。
ランド・アル=ソアが去り行くラストシーンは印象的で、
「車輪は回り続ける。いつかまた、別の形で似たような歴史が起こるかもしれない」
と余韻を残して物語を締めくくります。
ここまでのあらすじでメインの展開は押さえました。
けれど本シリーズ、あまりにもスケールが大きく、伏線・設定の量は計り知れないほど。
そこで以下では本作をさらに味わい尽くすための考察ポイントを幾つか挙げていきます。
今後ドラマや続編・外伝の形で新しい解釈が生まれる可能性もあるため、妄想と推測を織り交ぜている部分がありますが、「時の車輪」ならではの楽しみ方と思ってください。
善悪の絶対性 vs 相対性
シャイタンは「絶対的悪」の象徴かと思いきや、物語終盤で
「もし闇王を完全に消し去ったら、人々の自由意志さえ消える恐れがある」
と示唆されます。
つまり、真の善とは“常に選択できる状態”を維持することであり、悪が存在しない世界は確かに争いはないが、同時に進歩や個性すらも否定されてしまう可能性がある。
最終的にランド・アル=ソアは
「闇王を殺すのでなく、封印に留める」
という結論を選びました。
これは
「闇の存在は決して消えないが、それをどう扱うかは人間側の意志に委ねられている」
という、ファンタジーにありがちな“ラスボス消滅でハッピーエンド”をひとひねりしたテーマといえます。
車輪が回り続ける以上、闇王は完全には消えず、いつかまた裂け目が広がるかも……
という余地を残すのが『時の車輪』の壮大さ。
ランド・アル=ソアの悟りと「死」と「再生」
ランド・アル=ソアは長い旅路で何度も精神崩壊寸前に陥り、ドラゴンマウントでの“覚醒”を経て一皮むけた慈愛の人へと変貌します。
そのうえで最終決戦で肉体まで入れ替わり、新しい人生をスタート。
これぞ「死と再生」の象徴で、読者からは
「陳腐なご都合主義じゃ?」
とか
「すごいロマンチックじゃない?」
など、いろいろ議論を呼んできました。
しかし原作者ジョーダンは、もともと最後はランド・アル=ソアを解放する構想を持っていたらしく、彼が“竜王”という運命を成し遂げた後に自由を得るという落としどころ。
人によっては
「そんな急展開あり?」
とも感じるかもしれませんが、善悪の相対を描く作品性としては、英雄が最後に平凡な生を取り戻す筋書きが味わい深いとも言えます。
エグウェーンの殉死
主要キャラの中でもエグウェーンは人気が高く、最終巻での壮絶な戦死は大きな衝撃をもたらしました。
彼女は女性チャンネル者組の要であり、若くしてアミルリン座に登り詰めたリーダー格。
ラストバトルで「タール・ヴァロンの炎」を編み出し、ベイルファイアへのアンチテーゼを示した行動は、世界の時間そのものを修復するほどの威力。
しかし彼女自身も命を落とし、死後の世界で英雄としてホーンに加わった可能性もあるなど、読者間で論争が続いています。
「報われないが故に尊い」と捉えるか、「もうちょい生きてほしかった」と嘆くかは人それぞれ。
マットとトゥオンの奇妙な結婚
ギャンブル好き・女好きで口の減らないマットと、アダムによる奴隷制度を運用するショーンチャン女帝トゥオン。
普通なら犬猿の仲になりそうなのに、なぜか求婚→結婚という流れに至る。
この辺りのエピソードは「ラブコメ成分」が強めで、物語のシリアス度が急上昇する中でもマットのパートだけ妙に軽快、しかし血塗れアクションも多々あり。
でもラブもあれば殺し合いもある、ヒヤヒヤ度満点。
戦後の世界秩序を考えれば、ショーンチャン帝国と西方諸国の架け橋になる立ち位置で、ある意味でマットこそ世界の重要人物に。
トゥオンに従う形で“皇婿”になるのか、それとも気ままに生き続けるのかは想像に委ねられます。
ペリンとファイールの安定感
ペリンは物語初期から“狼の目”として苦悩する姿が描かれ、最愛の妻ファイールが度々苦難に遭う。
彼らの愛情はストレートで、読者からも
「ペリンはちゃんと妻を大事にしてて好感が持てる」
みたいな声が多い(逆に「二人とも嫉妬深いから面倒くさい!」という意見もあり)。
最終巻でペリンは夢世界に大きな役割を果たし、ファイールは角笛の争奪戦を担当するなど、夫婦でキーイベントを支えている。
彼らは帰郷して平和に暮らすビジョンが見えるので、ある意味、読者的にはいちばん「ほっ」とするカップルかもしれません。
女性キャラクターの活躍
『時の車輪』は男性チャンネル者の悲劇を正面から描く一方、女性側が政治と魔法の主導権を握るシーンが多いのも特徴。
エグウェーンやナイニーヴ、エレイン、モイレイン、ランフィアなどがストーリーを牽引し、ランド・アル=ソアすら翻弄される構図が続く。
女性が政治を動かし、男性が振り回され気味になる展開は
「他のファンタジーとは逆パターンで新鮮」
との評もある一方、
「アエズ・セダーイがちょっと威圧的すぎる」
とか
「女同士の権力争いもこわい!」
など妙なリアル感もあって、読んでいて飽きません。
車輪が回り続ける意味
シリーズタイトルにもなっている「時の車輪」は、ラストでも完全に止むことはなく、あくまで“もう一つのサイクル”を終えたにすぎない。
これは作品世界での輪廻転生や歴史の再演を示すモチーフでもあり、読者に
「次の時代でまた闇王が漏れ出すかも……」
という想像をさせる大きな要素。
ランド・アル=ソアが自分の時代を救い
「もうオレは自由!」
と解放されても、いずれ別の時代にまた誰かが闇王と対峙する運命に陥るかもしれない。
だが、その時代の英雄は今の時代の英雄とは違うアプローチで世界を守るかもしれない――という無限の物語への扉がここにあるんですね。
「最後まで読んでも終わらない」感覚が、『時の車輪』がファンを惹きつける要因の一つでしょう。
壮大なる物語を経て得られるものまとめ
以上、本記事では『時の車輪』全14巻+外伝のあらすじを最後の戦いまでネタバレ総まとめし、それぞれのキーキャラクターとフォーセイクン、魔法体系、最終的な結末、そして少しばかり深読み考察を述べました。
まとめると以下のようなポイントに着地します。
- 男の魔力汚染からの浄化という長年の悲願が遂に達成され、アシャマン(男性魔術師)たちが正気を保てるようになった
- ランド・アル=ソアが闇王を破壊でなく封印し直すことで、善悪の選択肢を人々に残した
- エグウェーンが命を賭してベイルファイアを打ち消す術を見出し、多くの命を救い塔のアミルリン座として歴史に名を刻んだ
- マットがショーンチャン皇婿となり、戦略家&ラッキーマンとして大戦を勝利に導く
- ペリンが夢世界でランド・アル=ソアを護り、妻ファイールを救い出して故郷で幸せに暮らすかもしれない
- ナイニーヴやエレインら多くの女性陣がそれぞれ国を守り、あるいは医療や政治を担い、戦後の世界に新しい道を切り開く
- そして、数え切れないほどのサブキャラクターや脇役も各所でドラマを持ち、読後は「こんなに多くの人がいたんだな……」と改めて驚く
ランド・アル=ソアが最後にやっと重荷を下ろし、新しい体で自由に生きようとする結末シーンは、ジョーダンが読者に
「英雄も人であり、やがて役割を終えたら自分の人生を歩んでもいいんだ」
と言っているようにも思えます。
大団円ではありますが、世界には復興やショーンチャン帝国との折り合いなど多くの課題が残り、まさに
「物語はここで終わらない。車輪が回る限り、歴史は続く」
という形で幕を閉じていくわけですね。
実際の読みごたえ
各巻とも途中で登場人物がバラバラに行動して長い距離と時間を費やします。
読んでいると
「いまこのキャラはどこで何をしていたっけ?」
と戸惑うほど群像劇が複雑に絡み合いますが、それだけ世界の広がりとリアルな空気感がしっかり描かれるとも言えます。
また途中、中だるみと揶揄される巻もありますが、伏線の積み重ねゆえ最終盤で怒涛の回収ラッシュが訪れ、好きなキャラの見せ場がしっかり用意されているのが嬉しいところ。
ここまで知ったあなたへ
ネタバレを踏まえてなお、
「もっと登場人物同士の会話や内面描写を味わいたい」
「フォーセイクン同士の裏切り劇を細かく見たい」
「ショーンチャン文化がどう構築されてるのか深堀りしたい」
など、細部の魅力は尽きません。
既に結末を知っていても十分楽しめるのが大河ファンタジーのおいしさ。
興味が湧いた方はぜひ原書や翻訳版に触れてみてください。
多くのページをめくる度に、新たな発見や
「えっ、こんな伏線あったっけ?」
と二度三度味わえるかもしれません。
また、Amazonによるドラマ版(『The Wheel of Time』)も配信されており、映像メディアならではの表現を加えて再構築が進んでいます。
原作ファンからは賛否両論あれど、
「原作でぼやけていた部分が映像化で分かりやすくなった」
「キャラ改変が気になる」
といったトークが盛り上がっているので、原作と合わせて検証するのも一興でしょう。
結び
以上、長大すぎる『時の車輪』を相当に圧縮しながら、最後の戦いまできっちりネタバレした上で、その世界観・テーマ・考察ポイントをめいっぱい詰め込みました。
善悪の相対性、男女の魔力分担、巨大な政治バランス、そして何より
「車輪が回り続ける」
という永遠の物語構造が合わさった結果、いまだ多くのファンを魅了してやみません。
竜王ランド・アル=ソアが闇王を封印し、新たな体で旅立つラストは、ある種の“第二の人生を歩む冒険”の始まりと言えます。
キャラクター同士の掛け合いや恋愛模様も豊富で、戦闘シーンの迫力と同時に微妙な人間関係に心を揺さぶられることも多い。
そんな多層的な魅力がこのシリーズに詰まっているわけです。
とんでもなく長い原作の完走は確かにハードルが高いですが、読破して振り返った時の
「私、まるで何年もこの世界にいたみたいだ……」
という満足感は格別。
世界規模の冒険を追体験した気分になり、現実に戻るのがちょっと寂しくなるほどです。
何か大きな物語に浸りたいとき、ぜひ『時の車輪』の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。